私は柱生に疲れました。もう折れたいです。

 私は初めはどこにでもある柱でした。いえきっと今でもそうなのでしょう。ですので犬が用をたしたり蝉が鳴いたり電線から電流が流れ出て超能力者に偶然なったりするのはまだジャブの連打とコークスクリューで許せます。ですがどうしてもジャーマンスープレックスからボディープレス、更に卍固めに移らねばならない状況があります。まず一つは、子供が私にパンチをかましてくるのです。無論痛がります。至極当然のことです。しかし私はそれにつっこめないのです。つっこみたくても手も足も出ません。清々しい春の夜明けにゴリラを見たような感覚に囚われました。そして何故人は隠れるときに私を使うのでか。明らかにバレバレです。そもそも本気で隠れるつもりならば体中を削ってつまようじ並の細さになる気でなければなりません。彼らは本気で隠れるつもりなのでしょうか。怪しい人物TOP100に軽々とアクロバットをかましながら入ることができます。つい先日も聖バレンチヌスにチョコを渡そうとして機会を狙って私に隠れ隠れ追っていたところ、通報されチョコともに没収され警官に何も言う間もなく食われた少女もいます。ちなみにその少女はその晩警官の家を放火しました。次は――いえよく考えたらこれらはまだ比較的マシな方でした。そう、どうしてもベギラマ、あるいはメラゾーマを使わねばならないときがあります。私はそのことについて語らねばなりません。ある男がいます。名前は知りません。別に変てこもないただの眼鏡をかけた青年です。特に人の目を引くわけでもなくどこにでもいそうな人です。ただ、その男が私に延々と話しかけてくるのです。どうやらわたしの名前はその男の中で「アケミ」に決まったようです。私は何も返事をしないというか返事ができないのに勝手に返事を作り飽きることなく喋り続けてくるのです。今のところの最多時間は16時間です。この前は「リカちゃんのパパの若さの秘密」を語っていました。しかもその男の中では私が同じ高校で高一の時に席が隣りになり付き合い始めたことになっているそうです。この前はアケミに編んでもらったマフラーについて語っていました。ちなみにそのマフラーに値札がついていたことは男には目に入らなかったようです。まぁこのようなことも家族に気付かれれば終わり、かと思っていました。しかしついこないだその男の兄を名乗る者が来ました。しかもどうやら私は最初はその兄に惚れていたらしく振られてその後その弟と付き合い始めたそうです。もうどうでもよくなってきました。その程度ならまだマシでした、今思えば。とりあえずサイコな兄弟が病院送りにされるのを気長に待とうと思っていました。その次の日家族が来ました。一家総勢で。食卓を囲んで一緒に食事をしました。少なくとも向こうはそう思っていたみたいです。私と男の結婚後の話をしていました。男は照れていました。どうやら私も照れいたそうです。子供は二人、男の子と女の子だそうです。子供とキャッチボールをしたいらしく、日曜日には必ず子供と遊んであげるそうです。青い家を買うのが夢らしく、犬と猫と鳥を飼うそうです。会社でのポストは課長で、部下や上司から信頼される人になりたいそうです。老後はのんびりと田舎で過ごすそうです。その前に生きていられるかどうかが些細な疑問ですが。墓はたいそうなものなくてもよいからいつも墓参りに来てくれれば――

 私は柱生に疲れました。もう折れたいです。







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