少年N

teenager N”−


 

注:この話は2000年10月のある日に起きた事実に基づいて作成されています

 

 

 少年Nは当時19歳で、地元の大学に通う大学1回生である。

少年Nは大学の夏休みを利用して自動車の教習所に通っており、その日は教習の

卒業検定の日だった。少年Nはこれまで特に大きな失敗をすることなく、スムーズに

教習課程をこなしていた。しかし、若さ故なのだろうか、教習所のシステムや教習所

の教官に対して強い不満を抱えていた。だが、それも今日で終わりだと思うと爽快な

気分だった。やっと免許をとれるという喜びもあった。少年Nはすでに自動車の免許

を取得している友人達から、「卒業検定で落ちるような奴はよっぽどどんくさい奴だか

ら、心配しなくても絶対受かるよ。」というような話しを聞いていたし、少年N自身も、

車の運転には少なからずの自信があった。

だから、今回の卒業検定で自分が落ちるなんて事はありえないだろうと確信していた。

 

 

 そこに落とし穴があった。

 

 

そんな中、卒業検定が始まる。

 

 順調な滑り出し。当たり前の話しだが、検定中は制限時速を守って走らなければ

ならないので大体40km/h以上のスピードを出すことはない。実際の公道でこん

なスピードで走っている奴はほぼ皆無にもかかわらず、だ。たまにいるが・・・・・・。

隣で偉そうに、「スピードを出しすぎるなよ!」と馬鹿の一つ覚えのように唱えるアホ

教官も、おそらくプライベートでのドライブでは制限時速を守って走るなんてことはな

いだろう。当たり前だ。はっきり言ってこんなスピードで公道を走っているようような

奴は迷惑以外の何者でもない。空気を読め、と言いたい。

 ともかく、こんな欠伸が出るようなスピードで走っているのに運転ミスをするハズがない。

少年Nは、こんな無意味な卒業検定はさっさと終わらせたかった。

 

 卒業検定は順調に進み、終盤を迎えていた。そして少年Nが乗った車は、ある交差点に

差し掛かろうとしていた。この交差点を右折したら、あとは直線を少し走って車を停車

させるだけ、という状況である。少年Nは余裕を持って車を右折させようとしたところ、

対向車線から一台の原付が勢いよく直進してくるのを視界に捉えた。

少年Nは少し迷った。原付との距離はまだ十分にある。検定中でなければ迷わず原付を

待たずに右折していただろう。それくらいの距離があった。しかし今は検定の真っ最中。

少年Nは少し逡巡したが、“原付を待たずに右折”に踏み切ることにした。

 

 これが間違いの初まりだった。

 

 

「キキィィーーーーーーーーッ!!」

 

少年Nの車が急に止まる。後続車には後ろからぶつかられそうになり、対向車線の

原付とは正面衝突しそうになった。少年Nは一瞬、何が起きたのか理解出来なかった。

助手席のアホづらした試験官が吠えた。

 

「おいッ! 俺がブレーキを踏んでいなかったら危うく大事故になるとこだったぞッ!!」

 

(はあっ!? 何言ってるんだッ!?)

 

 少年Nはここでやっと、何が起きたのかを理解した。

危険と感じた助手席の試験官が補助ブレーキを踏んだのだ。

 

(この豚野郎ッ!! ふざけんなよオイ!!)

 

 少年Nは冷静さを失った。

 

 何故なら、試験官が補助ブレーキを踏むという事は、卒業検定の中止を意味して

いたからである。この時点で少年Nの卒業検定落ちが決定した。

“このクソ教官のクソ判断のせいで落ちた・・・・・・・・・・。”

少年Nは大きな憤りを感じ、憤りを感じる以上にショックを受けた。

落ちるハズがないと思っていた。今思えば、絶対に落ちるハズがないという友人達

の発言にプレッシャーを感じていたかもしれない。

だが、いくら怒りをぶちまけたところで試験の結果が良くなるわけでもない。

少年Nはやり場のない怒りを抱えたまま、教官の決定に従うしかなかった。

 

 

 検定が終わり教習所に戻る少年N。

 

 

 少年Nは納得がいかないまま、すでに結果のわかっている検定結果を待たなければ

ならなかった。 この時、少年Nが待たされた時間は1時間30分。

少年Nの教習所に対する不信感はピークに達していた。

 

 1時間30分後、悪びれもせず現れた試験官は教習生達に試験の結果を言い渡し

始めた。その際、試験官は教習生達に対し、試験の合否に関係なく運転のアドバイスを

与えていた。しかし、大事故を起こしかけた面倒な教習生だ、という思いでもあった

のだろうか。少年Nに対してだけは、アドバイスを送ることはなかった。差別だった。

 

「ぷちっ」

 

 その時、少年Nは切れた。

このクソ教官を殴り倒してやりたいという気持ちだけは必死に抑えたが、

帰りの階段のおどり場でついに怒りを爆発させた。

 

「ドガァッッッッ!!!!!!!!」

 

蹴った。目の前の壁を怒りにまかせ蹴った。

 

 

 すると、自分の目を疑わざるを得ない出来事が起きた。

少年Nが蹴った壁に直径40cm程の穴が空いたのだ!

少年Nは頭の中が真っ白になり、全身から血の気が引いていくのを感じた。

さっきまで感じていた怒りはどこかへ吹き飛んでいた。パニック。

気が動転した少年Nは、あわててその場を離れた。

後ろからは3人の教官達が追ってくる。

 

教官「おいお前ッ! ちょっと待てッ!!」

 

少年Nは教官達の言葉を無視し、平静を装って早足で出口に向かう。

しかし教習所の出口付近で教官達に追いつかれた少年Nは、乱暴に腕をひっ

つかまれる。

 

少年N「なんだよ!」

教官「なんだよじゃない! お前がやったんだろ!!」

少年N「違う俺じゃない、っていうか離せ! 今から帰るんだから!」

 

 少年Nは抵抗したが、パニックに陥っている頭でうまい言い逃れなど思いつくハズもなく、

教官達はそんな少年Nを容赦なく取り押さえる。周りを見渡してみれば、そこの教習所の

教官ほとんどが少年Nを取り囲んでいた。数にして17,8人はいただろうか。

逃げ切る事はもはや不可能だった・・・・・・・・・・。

 

教官「いいからお前ッ!ちょっとこっちに来い!!」

 

 腕を引き千切らんばかりに強く掴んでいる教官が、少年Nを別室につれていこうとする。

気が付くとまわりには野次馬が大勢いた。

そんな中、少年Nは叫んだ。

 

少年N「俺がやったんじゃないって言ってるだろうが! だいたい証拠がねぇだろ!」

 

 少年Nはこの時、自分がやったという証拠がないからうまく逃げ切れるのではないか、と

考えていた。その現場は実は少し死角になっていたため、少年Nが壁を蹴る瞬間を見た

という目撃者はいなかっただろうし、監視カメラの類もそこにはなかった。

 

 しかし世の中には状況証拠というものがある。その存在を少年Nは知らなかった。

しかもその時は気が付かなかったが、ジーパンの裾に壁をぶち抜いた時についた痕跡

がくっきりと残っていた。少年Nがこの2つの事実を知っていれば、わざわざここに書くよう

な事件に発展しなかったかもしれない。

“壁をぶち破ったことを、素直に少年Nが謝罪する”

こうしていれば、この件はそこで終わっていただろう。

しかし、この話しはそんな終わり方をしない。

自分の罪を認めようとしない少年Nに業を煮やした教習所の所長が、ついにある行動に

でたのである。

少年Nは、まさに地獄に突き落とされるような思いでそれを聴いた。

 

所長「ちょっと警察に電話して。」

 

 少年Nは一気に血の気が引いた。

警察沙汰になれば家族にまで迷惑がかかってしまう!!!

少年Nにとって、それだけは絶対に避けなければならないことだった。

 

しかし少年Nを取り囲んでいた教官達は、青ざめた少年Nを情け容赦なく別室へと押し

やるのだった。

 

(ちょっと壁に穴が空いたくらいだし、証拠だってないんだから大丈夫に決まってる。)

 

 別室に追いやられた少年Nは、何度も自分にそう言い聞かせ黙り込みをきめた。

教官達はそんな少年Nに対し、次々に罵声を浴びせていた。

しかし少年Nはうずくまったまま、それらの言葉を無視し続けた。

 

 そうこうしている内に、部屋の外がにわかにざわつき始めた。

どうやら本当に警察が到着したようだ。この時の少年Nの焦りは筆舌に尽くし難い。

しばらくして2人の警察官が少年Nのいる部屋に入ってくる。

 

警官「この子ですか?」

所長「ええそうですよ。コイツを告訴してやりますよ告訴!!留置場にぶち込んでやって下さい!」

(はぁっ? お前なに言ってるんだ? 壁に穴あけただけで留置場!? 馬鹿か!?)

 

少年N「何言ってんだよ! 俺はやってないって言ってんだろうがぁぁ!!」

 

少年Nはこのフザケタオッサンを殴り倒してやりたかった。

だが目の前に警官がいるので言い返す事くらいしかできなかった。

 

警官「とりあえず話は署でゆっくり聞くから。」

 

 まるで自分の言う事に耳をかさない警察官に対してもイラつく少年Nだったが、警察

沙汰になってしまったという事実が自分の肩に重くのしかかる。かなりのショックだった。

 少年Nは警察の世話になることなど生まれて一度もなかったし、そんなことになろうとは

夢にも思わなかった。自分には縁のない話だ、そう思っていたからこそ少年Nが受けた

ショックは計り知れないものだった。

 

 

 その後、警察署に連れて行かれる前に穴を空けた現場に連れていかれる。

警察の手続きとして、少年Nが現場に写っている写真を撮られなければならないらしい。

野次馬の好奇な視線の中、自分が空けた穴を自分で指差した写真を撮られる少年N。

滑稽だった。まるで自分が晒し者にでもなったかのような気分。

 少年Nはこの状況に耐えられず、周りをとり囲んでいる野次馬をキツく睨みつけた。

目が合ったものは皆、まるで凶悪犯を見るような目で少年Nを見ていた・・・。

 

 

(どうして俺はこんな目にあっているんだ・・・・。)

少年Nは泣いてしまいたかった・・・・。

 

 

 

 そして、少年Nはパトカーへと連行された。

 

 

 手錠はかけられなかった。

 

「暴れて騒いでいたら手錠をかけていた。」 警官にはそう言われた。

しかし、少年Nは手錠を架けられていたとしても何とも思わなかっただろう。

自分の許容範囲を超えた出来事に自分を見失っていた。

 

 

(パトカーのシートってビニール被ってるんだ。)

(ここに凶悪な犯罪者とかも乗っていたんだろうか。)

 

 

自分の行く末を考えなかったのは、現実逃避してしまいたかったからかもしれない。

 

 

 

そして遂に少年Nは署へと連行される。

 

 

 

To be continued


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