はじめに
阪神大震災で多大な被害を受けて、付近にある
古いアパートは軒並み全壊して利用者が激減した。
2Km離れた西宮北口駅周辺では5年前、復旧の再開発
計画でその中にレジャー施設を作り 温泉を掘る話が
持ち上がったが、現在は中断されている。
しかし、銭湯の将来に危機感を抱いていた私は、それが契機になり我が銭湯でも利用増の為に、天然温泉を掘ろうと決意した。
2000年12月18日   掘削申請手続き。         
 
業者に作成してもらった、100ページ余もある温泉掘削許可申請書類には、地質調査書、泉源調査、工事方法などが書かれている。それらを県に提出した。申請の掘削の深さは700mに決定。理由については後述する。掘削申請の受け付けは、毎年6月12月だけ。一回それを逃すと半年待たなければならない。

2001年1月11日   県から現地確認。

打ち合わせの時間より少し早めに、県の担当者が到着。申請書の掘削位置を確認するわけだが、場所を写真に撮っただけで帰ってしまった。なんとも簡単であった。聞くところでは大阪府では巻尺で位置を測定。さらに関東のある県は、掘削穴の位置が50cmでも違っていると、申請のやり直しを命ぜられた実例があるそうだ。 尚、資源保護のため、他の掘削場所との距離規制があり、兵庫県の場合500m以上離れていないと許可されない。(大阪600m以上)。

2001年2月10日      自然環境資源審議会

県関係者、学識経験者などのメンバーが集まり、当湯を含め数件の掘削申請について検討された模様だ。この会議の諮問を受けて県から掘削許可が下りるのは3月ぐらいになるらしい。

2月27日         掘削許可書
県知事から2月27日付で温泉掘削許可が下りた。
これで工事に着手出来るわけだが、付近は住宅密集地であるため、ご近所に騒音振動対策について説明と話し合いを持たなければならない。工事の準備もあるので、4月頃に始めることになりそうだ。

4/10          準備工事    
いよいよ今日から温泉掘削に向けての工事が始まる。
工事には最低50坪の広さがないと出来ないと言われたので、敷地内の空き地を確保するために住居部分を1部取り壊すはめになってしまった。
写真はピットという地下タンクの穴を掘るところ。

4/13           ベース作り
ピットの次は、やぐらと掘削機械を支えるための基礎作り。総重量は15トンもあるので、しっかりとコンクリートで固める。

4/20          ボーリングマシンの設置
H形鋼を2段に組み、その上にボーリングマシンを据付けた。

4/24           やぐら組立て
最後にクレーン車を使って、やぐらを組み立てる。
後は、沈殿槽、泥水槽のタンクと機材を設置して準備完了。いよいよ5月の連休明けから掘削を始めるので、掘削工事着手届を県に提出する。

5/7            掘削開始
(1)は重しを兼ねたロッド(掘削棒)。
外側にスタビライザーが付いているのが見える。その先端に
(2)のビットと呼ばれる刃先がある。

(3)は掘削断面図。
(1)
(3)
(2)
いよいよ掘削が始まった。ロッド(1本6m)の先に垂直に掘れるように3トンもある重しを付け、先端にビット(岩を削る刃先)をつけて回転させ掘り進む。
6m掘削すると次のロッドをつなぎ、以後は同じ事を繰り返していく。穴の直径は上部で約30cm、中部20cm、下部で15cmで 縦の断面は、竹の子をさかさまにしたような形の段々掘りである。
掘り始めて数十mは、家が揺れるぐらいの振動があるかも知れない、と聞かされていたがそれほどでもない。以前地下70mの井戸を、打ち込み工法(パーカッション式)で掘った時のほうが振動が大きかった。騒音は結構大きい。80フォンぐらいあるそうで、家の中ではテレビの音量を上げている。まあ許容範囲内ではあるが、、、、

5/12          鋼管挿入
1段目のガイド部を掘り終えたところで穴の径に合った鋼管を入れてセメンチングする。これは穴が崩れないようにするのと、周囲から水が浸入しないようにするためである。

5/14           中段の掘削 
トリコンビット(刃先)を、2段目の径に合ったものに交換して、再び掘削が始まった,
ところで最初、温泉はどこでも掘れば出ると思ったが、実はそうでもないらしい。この付近の地下には、粘土層、砂、礫層が重なってあり、地下千数百メートルには基岩盤があるそうだ。そのうち温泉があるのは、帯水層である砂、礫層である。
言い換えれば、基盤が浅くて主に粘土層がある場所では、掘削しても温泉は出ないと言うことになる。
5/16
今日で掘削の深さは60mを越えたようである。掘削のスピードは、地層や径の大きさにもよるが、およそ一日で20m〜30mはいくそうだ。

ガタン、ガタンと掘削機械が音を立てている。岩を削っている時は振動が大きくなるので、機械のレバー操作を頻繁に行う。その操作をする人はオペレーターと呼ばれている。ベテランのオペレーターになると、レバーの感触で地下のビットの状況が判断できるそうである。それにしても お昼休みでもマシンは運転中、、、オペレーターは交替でレバーを握っている。
掘削の仕組み

高いやぐらを組んでロッドの先にビット(刃先)を取り付け、ロッドパイプを回転させて掘っていく。掘った穴の土砂を取り除くために、特殊な泥水(粘土を薄めてのり状になったようなもの)を高圧のポンプでビットの先端から噴出させる。
泥水は水より比重が大きいので、土砂を地上まで運んで 戻ってきます。そしてマッドスクリーンで土砂と泥水を分離させ、泥水は循環させて使用する。またこの泥水は穴の内部が崩れたり、周囲から水を浸入させないような、重要な役目を果たす。

5/24         中段の穴に鋼管挿入
中段の掘削が終わったところで、その径に合った鋼管をつなぎ合わせ、挿入していく。つなぎ目は、ねじが切ってあるので しっかりと止めて、さらに溶接する。
この作業は、軟弱な地層だと掘った穴が崩れてくる恐れがあるので、手際よく1日ぐらいで終了させる。

5/25         下段の掘削開始
また、ツールス(掘削部材)を組替えて3段目の掘削を始める。いまのところ作業は順調のようだ。

大阪平野の深さによる泉質の変化
阪神間の丘陵地帯を除く平野部では、ほとんどが図のような泉質のようだ。
特徴として、900m前後から塩分を多く含むようになる。(海水が浸透したのかは不明)。
また、火山性の温泉ではないので、25度以上の温泉が、地表に自然に湧出することはありえない。
すべて水中ポンプによって揚水することになる。
なお、泉温については、地熱によって深度100mにつき、約3度の割合で上昇します。たとえば1000m掘削すると、地上の気温を15度とすれば、約45度の温泉を採取出来るわけです。
 掘削を700mに決めた理由。
上記のように深さによって、およその泉質が予測される。
実際に、深さが同程度の市内のご近所の温泉では、リゾ鳴○浜、浜○温泉、双○温泉が同じような泉質で公表されている。
その中にあって新しく掘削する温泉は、上記の既存の温泉の泉質と違ったものであること。塩分や鉄分が濃くて くせのある温泉よりも、銭湯は毎日利用するものであるから、あっさり系が飽きがなく良いのではないか。
そんなわけで掘削は、単純泉の湧出が予測される、700mに決めた。

温泉が出るまで

5/23       掘削は300m地点に到達。地表部の岩などの硬い地層ではないのでペースが上がっている。しかしオペレーターに聞くと、早く掘ると粘土層のように柔らかい層は先端が滑り、曲がって掘り進んでしまうので、ハンドル操作が難しい。滅多にはないが、大木などがあっても同様で、そんな時はオペレーターの腕の見せ所でもある。
6/1      500m地点を通過。

公立図書館で地質関係の本を調べた。
それによると、ここは大阪層群と呼ばれる地層があり、第3紀およそ100万年前は大阪平野は海であったそうだ。
そこに50〜60万年前に激しい地殻変動が起こり、六甲山、生駒山などが隆起した。
さらに幾度かの氷河期によって、海岸線が下がり現在に至っている。
海であったと言うことで、大阪平野での温泉のほとんどが、塩化物泉であるのが理解出来る。

それにしても、現在掘削している温泉は100万年前のミネラル、植物化石水ということになる。なんとも神秘的で、かつ石油や石炭同様に貴重な地下自然資源であることが言える。


予定より早く、掘削は700mに到達した。これは大阪の地層を知り尽くしているボーリング会社と、ベテランオペレーター達の結果だそうだ。しかし、温泉が出るまでには、工事はまだ半ばと言うところです。
6/9        目標の700mに到達

6/11       孔内検層
地下に電気を流し孔内の地層の位置と状態、温度を調査する。
現場で出た堀り屑(砂、粘土、岩)を基に作成した、地下地層断面図を参考にして、どの位置にストレーナー(取り込み口)を設置すれば良いかを詳しく調べる。
この装置は、間隔をあけた2本の電極棒を、ゆっくりと孔の中に下げていきながらDC12Vの電気を流します。地層によって電気抵抗値が変化するので、目的の帯水層を探し出すことが出来る。
これは一般的に、水は電気を通しやすく(抵抗値小)、粘土、岩などの非金属は通し難い性質を応用した機器である。

6/16           下段の鋼管挿入
掘削工事で、この工程は重要な作業である。
中段と時と同じように、鋼管をつなぎ合わせ挿入していく。
最下部の底は粘土層の位置で止める。
粘土層は水を通さないので、管の中に水が入って来ない。
しかし、全ての鋼管をそのまま穴に挿入してしまうと、水が入ってくる所が無くなってしまう。そこで、
つなぎ合わせの途中に、左の写真のようなストレーナー(鋼管に細長い穴を何箇所か開けたもの)を、電気検層で調べた帯水層の場所に当たるように正確に配置する。
ここは複数の帯水層があるので、それぞれに配置する。
この帯水層が多いと当然、湧出量も大きくなる。
鋼管を全部入れたら.中段の鋼管に接続する。しかし、掘削断面図のように、中段と下段では鋼管の径が違うので、つなぎの部分から水が中に浸入しないように遮水処理をしなければならない。そこでパッカーと呼ばれる硬質ゴムパッキンをする。
ロッド(掘削棒)により孔底まで降ろし、左記図の様にパッカーを締め付けた後、Jの溝に合わせてピンを外しロッドだけを引き上げる。
地下深度が増すと、地圧も高くなるので掘削孔内が崩れやすくなるので、以上の作業も短時間で終らなければならない。

6/18           洗浄
鋼管の中、及び掘削孔と鋼管の外側の隙間の泥水を取り除く。
鋼管の洗浄は写真のような円盤型のワイヤブラシを上下させる方法と、孔底からポンプで水を圧入してきれいにする。

泥水の除去は、水鉄砲で水を吸い込む要領で、ロッドの先にゴムのピストンを付け、底から引き上げると管の外側にある泥水は、ストレーナーを通り引き上げられる。
これらの作業を何回か繰り返して行う。

6/24           揚湯テスト
最初は写真のように、白く濁った湯だ。それと共に小さな砂や石がたくさん出てくる。これらをストレーナーに詰まらせると大変な事になるので、水中ポンプの出力バルブを加減する。
この調整のノウハウは公開出来ないが、方法を違えるとせっかく掘った温泉が、しばらく経つと出なくなったり(枯れる)する事もあるそうだ。この揚湯テストは10日間ほど連続運転を行い、最大湧出量、温度、水位等を調べる。
いよいよ揚湯テストが始まった。
大馬力の水中ポンプを、孔内に
挿入して電源を入れる。

7/4         成分分析の検査 
公共の分析機関である、中央温泉研究所から担当者が来訪。
分析は45項目程度であるが、その中で温度、湧出量、におい等は現場で検査する。湧出直後は少し黄色みがかった色で、炭酸成分があるせいか多量の泡があり、数十秒ぐらいで消える。pH(ペーハー)は7.6で、少し肌がつるつるする感じがあって、予想以上の温泉が期待出来そうである。
残りの成分分析については、温泉を東京に持ち帰り検査する。分析結果は約一ヶ月程かかるそうだ。

7/9          テスト用ポンプの引き揚げ
10日間のテストの結果、最大湧出量は650L/minもある事が分かった。
又、どれぐらいの深度にポンプを設置するかを調べ、これらのデータを基にポンプを選定して、温泉動力設置申請を行う事になる。

ところで大阪平野での温泉は火山性ではないから、25℃以上の温泉が地上に自然湧出する事はないと書いたが、少し補足すれば,実は地下深くにある温泉は、地球内部の圧力によって地下数十メートルまで押し上げられるので、そこからポンプを使って地上に汲み上げる。

7/19         やぐらと機材の撤去      
まだ認可される予定の、ポンプ挿入工事が残っているが、掘削は終ったので、やぐらと機材を撤去する。そして工事終了届けを県に提出する。  これで昨年12月の掘削申請から8ヶ月間にも及ぶ工事は一応終了したことになる。現在、水中ポンプの設置許可が下りていないので、温泉は出ない(出せない)状態だ。
実際に ”温泉が出るまで”には、この後、温泉取得届け、動力申請書の提出、温泉利用申請などの、諸手続きが必要になる。

温泉を利用出来るのはまだしばらくかかりそうだ。書類手続きが色々とあり、例えば兵庫県ではポンプ挿入の申請受付が年2回のみで次回は12月だ。そして来年2月に審議され、許可が下りるのはさらにその後、3月になる。お役所仕事とは言え遅いのが残念である。

8/18        温泉の分析結果    単純温泉(弱アルカリ性)
分析機関から温泉分析書が送られてきた。検査結果は予想通り単純温泉である。
ここで補足すると、成分が単純(少ない)だから単純温泉と言うのではない。

まんべんなく温泉法に定める成分を含有し、かつ塩化物泉(塩分)や含鉄泉(鉄分)のように突出した成分がないのを単純温泉と呼ぶ。

故に、くせがなく湯当たりしにくいので、毎日のように利用する銭湯には都合の良い温泉と言える。

又、弱アルカリ性なのでお肌にすべすべ感がある。

8/20         温泉取得届
温泉分析で温泉と認定されたので源泉名を、「宮泉(みやみず)の湯」と命名して
県に温泉取得届を提出する。
これで来年3月の自然環境資源審議会の認可を待つことになる。
<終わり>