論文抄録



顧客参加とサービス・オペレーション

 サービス・オペレーションへの顧客の参加形態は、そのオペレーションの仕組みによって大きく異なる。サービス・オペレーションを構成する活動は、顧客との接触のないバックヤード、顧客との接触が一方向的であるフロント、顧客との相互作用があるサービス・エンカウンターに属する活動に分かれている。現代のサービス企業では、オペレーションの管理を容易にするためにサービス・エンカウンターをできるだけ最小限に留めるようなシステムが設計されがちである。
 ところが、専門サービスと呼ばれる顧客との相互作用が避けられないタイプのサービス企業では、オペレーションの効率を高めたり質を高めるための手段が限られている。その中でも顧客がオペレーションの中で取る行動の管理は、重要な課題である。
 顧客がサービス・オペレーションにおいて、サービス提供者に協力的な行動を取ることは情報の円滑や受け渡しやオペレーションの効率化などアウトプットであるサービスの質やコストに影響がある。ただし、どの様な誘因が顧客の行動をより好ましい方向に動機付けられるのかという問題は言及されてこなかった。

 従来からの議論では、顧客の苦情行動が顧客満足から大きな影響を受けることは示唆されてきたが、サービス・オペレーションへの参加誘因に関しては参加することによってサービス品質が高まり、顧客満足が高まるという因果経路が示唆されてきただけであった。こうした関係は、現実のサービス・オペレーションでは双方向的な意味合いも高く、顧客満足が参加を促すことも十分に考えられる。
 加えて、顧客満足が与える購買後の行動意図としては、再購買意図と他者への推奨意図がある。これらの行動への影響を総合して検討することで、顧客満足の持つより幅広い意味を明らかにすることができるだろう。

 この論文では、サービス・オペレーションの諸形態と顧客関与の形態についての議論をおこなった後、病院の通院患者のデータを元にして実証研究をおこなっている。

マーケティング・ジャーナル、16-2、4-17.





購買経験を利用した顧客維持戦略

 購入したサービスの品質が、顧客の再購買意図に影響することは従来からの研究で何度も示されてきている。サービス品質の形成に対してはSERVQUALと呼ばれる尺度では、顧客が購買前に持つ期待との比較によるサービス品質の形成が主張されてきた。
 また、顧客維持(customer retention)の観点からは、顧客を維持するためにどの顧客に投資をすればより効率的なのかは繰り返し議論がされてきた。サービス・マーケティングからは別の指摘もされてきている。サービス企業に対しては、購入後もしくは購入中に顧客が感じる製品への不満に対処するために「リカバリー」行動が従来から推奨されてきている。ただし、この行動には相応のコストがかかるし即応性がなければ顧客の不信を高めるだけである。リカバリーへの投資を最小限にするためにセルフサービスを導入するなどの手段も可能だが、顧客行動の管理ができなければこれも逆効果になりかねない。
 それでは、本当にどのタイプの顧客に投資をすることが顧客維持率を高めることに役立つのだろうか。既存研究では、最低限の期待水準と顧客が十分と思う期待水準の二つの水準を設けて、この水準を超えるかどうかで顧客を分類することが考案されてきた。この枠組みに沿った研究においても、三つのゾーンに分類されるそれぞれの顧客層のどこに投資することが効率的なのかははっきり示されてこなかった。

 この論文では、期待値の代わりに顧客が購買時に経験した不満を元にして、顧客を分類しどのタイプの顧客に投資するべきかを議論している。その結果、従来考案されてきた北市によるものよりも、より正確に顧客の再購買意図や顧客満足への影響を推し量ることができた。

マーケティング・ジャーナル、16-4、4-16.




適応的意思決定の理論

 人間がいくつかの選択肢から最適と思われる選択を行うことは、日常の購買行動に限らず様々な場面で直面する課題である。従来からの意志決定理論では、意思決定者が特定のルールに従って意志決定することを前提とするしないかによって2つの研究の流れがある。
 構成的モデル(constructive model)と呼ばれる後者のモデルでは、意思決定者は何らかの基準を持って意思決定ルールを選択することを仮定している。この"deciding how to decide"の問題は、意思決定にかかるコストとの関係で情報の価値の立場からのアプローチが行われてきた。
 このモデルでは、意思決定の基準として「努力−正確性」パラダイムを使いながら、意思決定者の情報処理努力とその結果得られる意思決定の正確性を勘案して意思決定者が意思決定方法を選択するという仮定をおいている

 情報処理努力は、意思決定者が取得する情報量とルールを使った効用の計算からなる。一方で正確性は線形補償型のモデルとランダム選択を基準に選択方法によってどれくらい正確な結果が得られるかを計算する。
 この二つの係数を比較することで意思決定者が、どの様な選択文脈でルール選択を行っているのかが実験によって確かめられてきている。
 この論文では、このモデルがどの様な変遷を経て成立してきたのかをレビューしながらその問題点と現在のリサーチトピックスを明らかにしている。

商学論究、45-4、51-74.





顧客満足モデルの発展

 顧客満足(Customer Satisfaction)は、顧客が購買後に購買対象に対して持つ態度の一つである。従来から、消費者の購買前の期待値と購買後の実現値の乖離として理解され、定式化されてきたこの概念は、実践の場においても広く利用されてきた。
 残念ながら顧客満足は、購買行動に特定して形成される態度なので、これを長期間にわたるマーケティング戦略の目的の一つとして採用するためにはいくつかの限界がある。まず、第一に期待値の切り上げの問題がある。長期間にわたって繰り返し同じ銘柄を購入していくと品質に対する期待値が徐々に上がっていき、結局は顧客満足が高まらない状態になる。その状態になったときに顧客の忠誠と顧客満足の関係が明確ではなくなってくる。
 この問題に対応するために、製品クラスに対する平均的な期待値の考え方を取り入れたモデルが導入されている。この種のモデルでは、銘柄レベルの期待値と製品クラスレベルでの期待値を考慮して、製品クラスレベルでの期待値との乖離を顧客満足の基準にひいては銘柄変更の基準になるものと考えている。一方で、顧客が長期的な取引をしている場合に関係の常軌性が銘柄忠誠に影響して顧客満足が低下してもなかなか銘柄変更が起こらない点も指摘されている。

 この論文では、小口商用貨物の企業への調査を元にして、この様な企業間取引でも顧客満足が銘柄の再購買に影響していることを示している。

商学論究、46-5、39-53.





サービス・オペレーションの構造を考慮した戦略分類

 サービス・オペレーションは、サービスを提供する仕組みを指す一般的な用語だが、サービス提供システムとして理解するだけではその意味を見誤ることになるだろう。サービス・オペレーションが顧客を含むシステムであり、かつサービス企業にとっては製品そのものである。
 本稿では、サービス・オペレーションの類型を考えることで、サービス企業が顧客インターフェイスとともにオペレーションを変化させることを示している。この類型を理解することで、サービス企業がオペレーションを組み立て、また現在のオペレーションを戦略的に組み替えるときにどの点が問題になるのかが理解されるだろう。
 サービス・オペレーションは従来から労働集約率と顧客化の程度によって4つに分類する方法が採用されてきた。この分類の良さは、それぞれのサービス・オペレーションの改良点や留意点を指摘できることであった。本稿では、この分類を元にして「サービスの工業化」や顧客選別によるサービス・オペレーションの生産性の向上など既存の理論との整合をより強く意識しながらサービス・オペレーションを具体的に記述することに努めている。

商学論究、47-5、39-53.





リテールバンキングの顧客基盤とは

 サービス業における顧客基盤とは、長期に渡ってその企業の存続を保証するものである。繰り返し長期的その企業と関係を維持することで高い利益が上げられることも実証的に明らかとなっている。本論文では、地方銀行のリテールバンキングを支える顧客基盤の特徴を明らかにしている。
 そこで明らかとなったことは、顧客満足が取引年数と直接関係ないことである。長期に渡って利用しているからと言って顧客満足が高いわけではないが、逆に小さな金利差による離脱への効果が緩和されることが明らかとなった。
 地方銀行にとっての顧客基盤は、多数の地元の顧客に支えられており、その選択理由の大半は近くに店舗があることである。けっして高い知覚品質を元にして顧客が維持されているわけではない。ただし、将来の取引の拡大には銀行のサービス品質が大きく影響している。
 ところが、情報源としての銀行の評価は高くない。銀行のマーケティング・コミュニケーション能力の改善が必須となるだろう。

地銀協月報、479号.






顧客の関係性からの離脱過程とその維持

 顧客は取引企業の提供する製品に不満足を感じた時にブランドの変更を考慮するようになる。ところが、顧客は簡単に購入しているブランドから離脱するわけではない。既存の研究でもある程度の愛着のある取引からは幾つかの段階を経て離脱することが明らかにされている。
 特にサービス企業では、新しいブランドへのリスクも高く簡単に離脱が起こらない。美容院などの事例では、サービス・エンカウンターでの失敗が続いたり、あまり注意を払われていないと感じた時に離脱を考えるようになる。
 しかし実際の離脱は代替案があって始めて実行に移される。バラエティ・シーキング行動が主であるような製品とは違って、こうした継続的な取引が行われる製品では、離脱過程の途中でそれを阻止する手段を考えることができる。
 本論文では文献研究と実証研究を交えて離脱に至る過程を考察した。

商学論究、48-3.




リテールバンキングの顧客セグメント

 地方銀行での調査を元にして4つの顧客セグメントを抽出した。銀行の顧客基盤は金融サービスを購入しているが、その中身はかなり異質である。
 大多数を占める現状維持派は、取引継続意思は強いがこれ以上の拡大も求めていない。口座は財布代わりに便利に使っているが、近くにある便利な支店を利用することに価値を見いだしている。また、無関心派は金融サービス自体に興味が少ない高齢者が多く、信用金庫の主要な顧客基盤である。
 高リスク群は、都市銀行を中心に取引を行うか、分散して金融機関を利用している。最後の革新派はインターネット・バンキングなどにも興味を持っていて若年層でありこれからの重要な顧客である。
 地方銀行では、後者の2つのグループを確保し切れていると言えない。確かにある程度預金は確保できるが、それは高収益群ではない。特に都市銀行との競争や郵便局との競争で劣位に立たないようにすることが必要であろう。

商学論究、49-4,93-116




電子商取引におけるチャネル再編成

 電子商取引(e-commerce)は、インターネットの発展に伴って、対消費者向けの新しいチャネルとして注目を集めている。近年の幾つかの企業の成功によってその可能性が強く示唆されてきた。
 しかし、電子市場といわれる多くの参加者によって成立する仮想市場の形成には多くの障害があり、予測とは違ってその発展ははかばかしくない。  本論文では、電子商取引を使ったチャネルの類型を提示して、それぞれの類型の特徴を議論した後、電子商取引がチャネルの編成原理に影響を与える可能性を検討している。
 特に電子商取引の進展によって中抜きが言われる卸売商の立場から見て、電子商取引の利用パターンを提示した。

商学論究、50-1,2,3.




消費者のリスク対応行動と情報処理

 知覚リスクをどの様に低下させるか、そのために効率的に情報を収集するかは、消費者の情報処理の動機として重要なものだと考えられてきた。本論文は、吉田秀雄記念事業財団から援助を受けてサーベイを行った結果から、知覚リスクに関しての基礎的な仮定の見直しを計っている。
 知覚リスクは、不確実性(品質分散)と損失で決まると考えられているが、実際の商品では不確実性の項があまり大きく影響しない。この調査でも旅行商品、医療サービス、銀行のうち品質分散の効果が出たのは、医療サービスだけであった。また、従来から主張されてきた品質分散と知識の関係では弱いながら二次の関係があることが推察された。  その他の結果は、情報処理論に沿ったものであり、知覚リスクと口コミや新聞広告は受け身の消費者が利用し、インターネットが情報収集に積極的な消費者に利用されることなど興味深い結果が得られている。

商学論究、51-2




選択と評価における選好逆転

 選好逆転(preference reversal)は、様々な条件によって同じ消費者が異なる製品を選択することを指している。この論文では、被験者に与える課題が選択であるか評価であるかによる違いを検討することを目的としている。従来から選択課題では、情報処理努力が節約され加重加算型で得られる選好とは異なった結果が出ると主張されてきた。
 本研究の実験では、ホテルの客室を対象として、関与水準の低い場合に選択課題で評価課題と顕著に不一致が発生することが確かめられた。また従来の研究では、くじなどを使ったものが多く取り上げられている。この研究ではそれを8つの属性を扱う実験を行った。
 その結果、関与水準の低い被験者は価格に頼ったり、選択課題の方が価格に頼ると言った仮説も支持された。これらの仮説は、属性を増やしても実証的に指示されたことには意味があるだろう。

商学論究、52-4



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