サービス・マーケティングとはどんなもの 

        <無体財取引の理論的展開>  


暫定版(8/20/2002)

1.サービス・マーケティングの変遷

 サービス・マーケティングは、先進国での急速なサービス経済化に対応して取り引きされる財の中でも無体財(形の無い財)の比率が上昇し、そのマーケティング問題に対処するために生まれてきました。主に70年代に北米とヨーロッパで始まり、80年代になって盛んに研究されるようになりました。それは、既存のマーケティング理論のサービス企業への援用というものではなく、新たな問題を提起しながら発展してきました。その研究範囲はサービス品質、サービス・オペレーション、サービス戦略など多岐にわたっています。それはサービス業のためのマーケティングというだけではなく、メーカーや流通業などにも広く適応されるものとなっています。
 すでに、数多くの実践が積み重ねられてきており、サービス・マーケティングの各論としての医療マーケティング、観光マーケティング、運輸マーケティング、銀行マーケティング、教育マーケティング、非営利団体のマーケティングなどの研究分野が業界の枠を越えて統合的な理論の中で理解されようとしています。
 近年では大半の北米のビジネススクール(経営大学院)では、サービス・マーケティングやサービス・オペレーションの授業が開講されています。

 プログラム例

  Darden Graduate School of Business Administration,Innovative Marketing of Services
  Fuqua School of Business,Consumer Service Management
  Kellog Graduate School of Management,Services Marketing

 リサーチセンター

  Center for Services Leadership

 教科書

  Zeithaml and Bitner, Services Marketing, McGrawHill, ISBN 0070782504
  Lovelock, Services Marketing, 3rd Ed, Prentice Hall, ISBN 0134558413

2.サービス品質

 サービス品質(Service Quality)は、80年代に米国で問題となったモノの品質革命と同じようにいかにしてサービス経済化した社会において、サービスの品質を維持するのかという問題に答えるために盛んに研究されてきた。サービス品質を維持しながらどの様にコストを削減していくのか、その時にサービス企業が注意するべき点は何なのかを追求してきた。

 サービス品質問題へのアプローチは、消費者がサービスに対して持つ知覚品質からのものとサービス・オペレーションからのものがある。これは、サービス特に対人接触や施設の利用を伴うサービスオペレーションでは、製品の交換が消費と同時に行われるためにオペレーションと知覚品質は引き離せない問題なっているからである。この場合に、サービス製品は返品されたり改めて品質評価される可能性はほとんど無い。品質がその場で決定されるために、品質評価のための購入前の探索は限られたものとなってしまう。加えて無形であるサービスの品質を示す「手がかり」は限られたものとなっている。サービス品質の評価問題は、こうした品質評価の困難性と品質維持の問題はサービス経済化した社会では、適切な価格で一定の品質のサービスを手に入れることの困難さ、特に消費者の銘柄変更の可能性を低めることで十分な競争が確保できない問題を生んでいる。

 サービス品質に関する研究は、こうした問題意識を持ちながら、サービス品質をいかに計測しそのサービス品質が関連する構成概念である「顧客満足」や「再購買意図」とどの様な関係にあるのかを明らかにすることでその戦略的な意味がを持ってきている。サービス品質の計測には「SERVQUAL」と呼ばれる尺度などサービス品質をできるだけサービス産業に横断的に計測しようとする試みがなされてきた。これは、サービス・マーケティングが単なるサービス業のマーケティングではなくサービス(無体財)のマーケティングとして製造企業も含めた広範な問題に対応しようとする目的を持っていることに対応している。

 一方、サービス品質は知覚品質として理解される以上、それが形成される過程の理解が不可欠である。消費者がどの様な手がかりを利用しながら知覚品質を形成しているのかは、サービス企業の品質訴求のために重要なポイントとなる。サービス製品では「価格」や「銘柄」など外在的手がかりと呼ばれる手がかりが重視されることが明らかになってきておりその利用形態や提示の仕方もマーケティング上の論点となっている。

3.サービス・オペレーション

 サービス・オペレーションは、サービスを提供する仕組みであり、オペレーションの開発は製造企業にとっての製品開発と同じものである。ただし、、サービス・オペレーションの構築や運営は経験を積むのに時間がかかる場合がある。モノの生産とは違って、一つのサービス・オペレーションが抱える問題を解決しようとしても、環境要因が多様であったりオペレーションの数が限られているなどするために、オペレーションの比較自体が困難な場合がある。例えば、スーパーマーケットの支店や銀行の支店などを頭に浮かべればよいだろう。

 サービス・オペレーションは、大きく分けると3つの構成部分に分けることができる。最も顧客よりにあるのは、サービス・エンカウンターと呼ばれる顧客と相互作用をもつ部分であり、顧客が投入する努力とサービス企業の提供物によって最終的なサービス製品が形成される場所でもある。そこでは、サービス製品の最終的な品質が決定される。品質の管理のためには、この部分での顧客の管理やサービス提供を行う従業員の管理が重要な課題となる。

 2つめの構成部分は、フロントと呼ばれる顧客との直接の関係はあるが、サービス企業からの一方向の働きかけが行われる部分である。ホテルの客室など一般的に顧客の利用する施設などがここに含まれる。この部分では、顧客にとって使いやすい形態や指示が整っていることだけではなく、顧客が自分でカスタマイズできる仕組みを作ることによって、サービス製品を個別に対応できるようにすることが重要である。フロントは、サービス・エンカウンターのようには個客対応に役立たないと考えられているが、逆にこの部分ではカスタマイゼイションは低いコストでの個客対応を実現することができる。

 3つめの構成部分は、バックヤードと呼ばれる顧客との接触のない部分である。サービス・オペレーションの後方にあって、最も工場に近いオペレーションが可能な部分でもある。顧客との接触が無いために地理的に離れた場所での生産も可能であり、集中化した生産体制がとられる場合もある。また、十分に標準化が進めば幾つかの活動を外部に委託することも可能である。最近、「シェアード・サービス」と呼ばれる組織内の活動を外部化する動きがあるが、その大半はバックヤードに属する活動である。バックヤードでは、単に省力が行われるだけではなく、サービス品質を高めるための活動の整備が不可欠である。特に、高い技術を持つサービス提供者をサポートして、高い生産性を維持するようなシステム作りが求められる。


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