04/03

 「ジャガイモの皮を食べるなよ……!」って小学生のとき言いませんでしたか。うちの小学校ではよく言っていたと思うんですが記憶が定かではないのでもしかしたら言っていたのは僕一人だったかも知れませんが。今日突然これを思い出してやたら可笑しくて可笑しくて。あ、説明しないと誰もわからないと思うんで一応しときますとね、というかどう考えても先に説明しておくのが前提条件だと思いますけどね、幽々白書って漫画がありましてね、それに飛影ってキャラがいてですね、「邪眼の力を舐めるなよ……!」って台詞を言うんですけどね、




04/06

 わかったんだ。三日三晩考えつづけてようやくわかったんだ。僕らが小学生のときジャガイモの皮を食べるなと言ったのは、皮に毒が付いていた場合を恐れてのことなんだ。暗殺を危惧していたんだ。一見厳しく見える(ジャガ皮愛好家に)この言葉は、実は優しさで包まれていたんだ。世界は貴方に厳しくしているように見えるかも知れない。だけどそういうときにはこの言葉を思い出して欲しい。優しさに包まれた、この言葉を。

 現実はそこまで僕達に厳しくない。だから僕は言おう。ジャガイモの皮は食べるな。




04/10

「あー、私もう歩けないー」
「飲み過ぎですよ、先輩」
「富永君、うちまで送ってー」
「いいんですか、送り狼になっちゃいますよー」
「あははー、なれるもんならなってみー」
送り狼を馬鹿にするな! お前に送り狼の何がわかるというんだ! いやわかるまい! いいか、まずつま先だ! 相手を家まで送り扉を閉めようとした瞬間にさり気なくつま先を扉の間に挟みトイレを貸してもらおうとする! このときの動作は忙しかったり強引であってもいけない! あくまで自然に! ナチュラルに! その微妙なバランス! このスキルを会得するためだけに一体どれほどの者がその命を散らしたか! しかもこれは単なる一動作だ! 序章に過ぎない! まだこのあとには過酷な試練がいくつ残っていることか! それを乗り越えし者だけが真の送り狼となれる! そう、送り狼とはまさに選ばれし者! 類稀なき戦士! この地球が没するとき人類を導くのだ! ああ遥かなる天よ! 送り狼の姿が僕の脳裏にありありと!」
「寧ろ送り狼を馬鹿にしてるのはアンタでとりあえず一人で歩けるから帰るね」




04/16

 俺の首にかかる吐息。授業中だというのに、俺の首には吐息が思う様かけられている。一体何なのだ。講師が壇上で授業を行っているこの瞬間に大胆にも俺の首筋に吐息をかけている、後ろの人間は一体何なのだ。これが女なら誘っている、からかっている、などの考えもできるが、後ろの人間は男だ。一体、後ろの男の目的は何なのだ? 何が狙いだ? 授業妨害か? 金か? 命か? 食事か? 風呂か? それとも、ア・タ・シ?

 はい、最後の台詞言ってみたかっただけでした! そんで「キモ〜イ」とか芋虫を見るような目で見られたいだけでした! そんなことを思いながら早くも二日目の午後の授業を「天気が悪いから」とサボってるそんな自分。死んでしまえ。




04/19

「……ですからここは彼の言う通り、少し修正を加えた方がいいと思います」
「そうね……伊藤君、貴方はどう思う?」
「そうですね……コンバトラーVという昔のロボットアニメがあるんですが、そのコンバトラーVはビッグブラストという名称のミサイルを腰から撃つんですよ。ですが不思議なことに、そのミサイルの全長はコンバトラーVの腰の幅よりも長いんです。一体どうやって自分の腰の幅より大きいミサイルを収容しているのか……僕は、子供の時分何故かあの中には四次元ポケットがあって、その中にミサイルが入っていると思っていたんですよ。ドラえもんが同じ世界にいると疑わなかったのですね。でもよく考えてみたら、例え四次元ポケットに弾頭を収容することができても、それをミサイルとして撃ち出すことなんかできないんですよね……」
「……それで、それがこの企画とどう関係あるのかしら……?」
「いえ特に意味はありません」




04/23 メモ

 昼。デパートで本を2冊、服を1着買ってそのままデパートの中にあるファストフード店に入った。それからどこか行くのも面倒だったし、もうそこで済ませようと思い、入った。2つのレジには既に人がいて、僕は待ちながら注文を考えていた。左のレジが先に空いた。「本日はこちらでお召し上がりですか?」「はい。てりやきバーガーセット、Lで」「お飲み物の方は?」「コーラで。あと、このスイートポテトアップルパイを一つ」「ご注文は以上で宜しいですか?」
 僕は頷き、その店員はそのまま奥に入っていった。財布から千円札を出して待っていると隣のレジにいた女店員がこちらの方に体を寄せ、話し掛けてきた。だけど僕は呆けていて、何を言ったかまでは聞き取れなかった。「え? あ、いや注文はもう言いましたけど」「えーと、黒戸さん?」
 僕は驚いた。いや、驚いたんだと思う。唐突に名前を呼ばれて、一体何がなんなのかわからなくなった。とりあえず、この店員が僕の名前を知っている理由として「何か自分に関する緊急自体が起こってこの店に入ることを見越した誰かがここに電話をしてその電話の内容と酷似した風貌の僕が入ってきたので尋ねてみたら当たりだった」というところまで考えていたら、「覚えてない? 高校で、同じだった」
 あぁ、と思った。名札を見たら確かに見覚えがある名前だった。だけど僕は、自慢になるわけもないが、高校での顔と名前が一致する女子は多分5人もいない。素で覚えてない。この女子も、もしかしたら一度二度喋ったことがあるのかも知れないけれど、僕の方は全く覚えていない。酷いもんだ。で、そこまで理解しても、僕は一体どう反応すればいいのかわからなくて、「え、あ、え、」と蛙みたいに繰り返すだけだった。彼女はそのまま隣の客の対応に戻り、僕は番号札と注文の品を受け取り席に着いた。

 席に着いて考える。なんでこんなことになってんだ馬鹿。ああ、この店行かなきゃよかった。とりあえずこのあと「高校のときの女子は殆ど覚えてなくて、悪気はないんだけど、ごめん」とでも謝ればいいんだろうか。仕事中にこっちから無理に話し掛けるのも迷惑だろうか。なんで彼女は俺のことをさん付けで呼んだんだろうか。焦燥感に苛まされながらわかったことが一つ。もうこの店行けねぇ。また昼飯の選択肢が減った。




04/24

 あ、凄い。なんかもう凄い観覧車乗りたい気分。彼女と遊園地でデートして疲れ果てて、休憩がてらに乗ってみたい気分。公の場、されど密室。そんな矛盾をはらんだ夢の空間。最初は疲労だとか景色だとか当たり障りのないことを話す。会話が少し途切れ、ふと互いの手が触れ合う。思わずサッと手を離してしまう二人。顔を見合わせ、なんとなく笑う。しかし高まる雰囲気。数十秒の沈黙。男、女の手の上に自分の手を乗せる。女、拒まない。高鳴る鼓動。紅潮する頬。男、ギュッと女の手を握り、引っ張り上げ、後ろ手に捻り上げ、「命が惜しければこのポッキーを鼻の中に入れろ! そして笑え! 悦楽の表情でな! ノルマは5本だ! さぁ来い! さぁ来い!」「いやぁ! 人でなしィ!」

 僕はそんな甘ったるい(ポッキーが)、ラヴストーリーを望んでいる。だから僕と一緒に観覧車に乗ろう。




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