そこの道行く人よ、少し話を聴いてくれないか。いや、道行く、とは表現がおかしいか。ここは現実ではないのだな。どうもこういう口癖は自分が現世に生きる人間である限りは一生つきまとってくる気がする。これは俺が古い人間だということだろうか。新しいものにケチをつけ、古いものを懐かしがっている自分の姿が想像できるよ。あぁ、では言い方を訂正しよう。そこのインターネットという胡散臭い電脳世界で自己満足のために戯れている子羊よ、話を聴いてくれないか。ん、あぁ、そうかい、聴いてくれるか。ありがたい。俺ならこんな呼び方されたら死んでも聴かないけどな、ははは。
君は「遠足」というものをどう思う? いや、漠然過ぎたかな。では、「山登り」というものをどう思う? まぁハイキングでもいい。つまり山を登ったり下ったりすることだ。疲れる、面倒、無意味、楽しい、自然を感じられる、達成感が素晴らしい、弁当が美味い、学校の勉強なんて実用性が無い、チャッピーは大型犬だ、犬より猫が好きだ、猫は肉球が素敵だ、ではどちらがより猫好きか合戦をしようではないか、いやはや私が負けるとは思えないがね、それはこちらの台詞だ勝負の日を楽しみにしているよ、色々な意見があると思う。これでは少し求める答えの範囲が広すぎるのでもう少し限定して質問しよう。君は、いい年した高校生どもが同じジャージを着ながら登山する姿をどう思う? もう一度問おうか。君は、いい年した高校生どもが水色のジャージを着ながら登山をする姿を見てどう思う?
これならば答えの範囲も少しは狭まろう。少なくとも「今日の夕飯はグラタンにしようかしら」などと回答も無くなるであろう。つうかそんな回答する奴は帰れ。君は、どう思う。ようく、イメージして欲しい。とある山で。自然に囲まれ、鳥達が囀る緑豊かな場所で。十代も後半に入っている者どもが。水色のジャージを着こなし集団で歩いている姿を。ようく、イメージして欲しい。少なくとも、状況に合うものではないのではないだろうか。違和感ばかりが浮き出るのではないだろうか。夕飯をグラタンにしている場合ではないのではないだろうか。矢張り今日はラザニアにするべきなのではないだろうか。そうは思わないか。きっと、君ならこの意見に同意してくれると思う。少なくともこれは一般論であろう。普通、常識、そういったものが陳腐に見えるかも知れないが、その常識論で、いや無理にとは言わない、君自身が感じた感想でいい、どう感じただろうか。どう思ったであろうか。それを教えて欲しい。ここまで長々と話を聴いてくれただけでありがたい、その上君の思う事を言ってくれだなんておこがましいことかも知れないが、どうか教えてくれまいか。そうか、ありがとう、言ってくれるか。ん? なんだって? すまない、よく聞こえなかった。もう少し大きな声で言ってくれないか。さぁ、もう一度。
「夕飯はカツカレーがいいと思うよ」
すまない、残念ながら君とは意見が合わないようだ。いや、時間を取らせてすまなかったな。俺の。(銃声)