一年の計は元旦にあり、とは昔からいい尽くされた言葉だ。

でも、のんびり寝正月を過ごしたからと言って決して一年のんびり過ごせた試しなどない。だから別段信じてもいなかったし、ま、気持ちの問題だろう、と思っていたのだが。

どうもここ十年余りは真実めいてるから怖い。

どういう事かというと、年開けは決まってベッドで迎えている。

人間寝るんだからこれも当たり前といえばそうだけど。

でも、この場合のベッドインはいわゆるそう言う類のもので、大概は自分以外の鼓動をカラダの奥深くに感じながら、年開けを迎えているのだ。

別に自分が望んでいたわけではなく。相手がそうしたいから…って理由で。


 大晦日。

今年こそ毎年のパターンを回避してやろうと俺が取った作戦は『酔い潰し』。

火村は意外に下戸だから、飲ませてしまえばきっと寝てしまう。

ここ数年は、恒例行事のように、年越し蕎麦を食べに出ていたのだが、それもやめて家で食べた。

 そのまんま、ちょっと一杯…と晩酌タイムに。といっても、開けたのは赤ワイン。

 ちょうど先週、朝井が土産にと渡してくれた逸品で、一緒に飲もうと思って、と差し出したグラスを火村は受け取った。

「…はぁ…んまい。家でそうやってのんびり正月迎えるのもいいなぁ」

 計画通りに事が運んで俺はかなりご満悦状態になっていた。

「そうだな。なかなか蕎麦も上手かったし…これも、いい味してる」

「そうやな…うん。はい、火村、もう一杯」

「いや、もう…」

「えー、いいやん。せっかく朝井さんがくれたんやで」

「美味しいのはわかったって」

「ん、だから、もう一杯くらいいいやん。あけたのに勿体無いもん」

 仕方ないなぁ、差し出されたグラスに並々と注ぎ込む赤い液。

 もう既に顔がほんのり赤い感じの火村だ。

 このまま、すんなりと眠ってくれたらいいんだけど… なんて、思いつつにこにこと会話を進める。

 今年も色々とあったような、何もなかったような…。

 振り返りながら、のんびりと過ごす時間。

 あぁ、こういう年越しもいいなぁ、と俺はしみじみ幸せを噛み締める。

 やがて、BGMのように流れていた紅白が最後の曲を迎えていた。

「今年は珍しいな。ポップスが最後やもん」

「…そーだな…」

 応える火村のとろんとした目。
 しめしめ、かなり…効いてるみたいだ。

「どうしたん?」

「いや、もう……」
 こくりっと船を漕ぐ、火村に慌てて俺は駆け寄った。

「あかんで、火村。こんなとこで寝てもうたら、風邪ひくって」

「ん…」

 酔うと、絡んだり、陽気になったり色んな人がいるけど、火村は寝てしまうのだ。静かになって、すーっと…。

「…火村…寝てもいいから、ここはあかんって。ちゃんとベッドいこ。な」

「ん…」

 グラスを手から奪い、机にそっと置く。

 肩に手を回させて、のろのろと立ち上がった火村を抱えるように寝室へ。

「ほら、向こう行こ。つかまって…」

ワイン四杯。楽勝だ。やったね!
 これで今年はぐっすり眠って健やかな幕開けが待ってるってことやなー、と俺はにこやかにベッドルームのドアをあける。

「はい、到着っと…」

 ベッドに腰掛けるような形で火村を座らせ、そのまま自分だけ立ち上がろうとした。

 が。

「えっ?」

 意外に強い力に引かれて、そのままベッドに倒れこんでしまう。慌てて起き上がろうとしたけれど、肩と腰に回された手が力強く阻んでいる。

 それって…もしかして?

「火村?」

 呟く名前返ってきた、耳元への囁き。

「駄目だよ」

「…な、にが?」

「ばればれだって…アリスの作戦なんて…」

 後ろから耳たぶを撫でる様に囁かれて、思わずぞくりと震えが走る。

「別に…作戦なんてっ…」

「俺を酔わしたかったんだろ。でも、残念ながら、あの程度だと丁度いい気分状態なんだ。こんな風に、熱くなって…興奮して…」

 ぐいっと押し付けられた下半身が火村の準備万端を告げている。

「あんっ…」

「アリスも…だろ…」

 そろり、腰から下ろされた手がジャージのズボンの上から俺の反応を探っている。

「や…めっ…」

 逃れようと身を捩る。

 その動きを巧みに利用して、ベッドの上、うつぶせになった俺の背を包み込むように火村がのしかかってくる。

「…やだって…はなしてっ…」

 その間も俺の分身を弄る動きは止まない。

「…んっ…うっ…」


 堪えようとして、唇を噛むけれど、それでも声が漏れてしまう。

「んー、いい声。…駄目だよ、そんなの逆効果だって」

 耳たぶにキスをしながら囁く声。

「…火村ぁっ…」

「このまま…イキタイ? …新年早々、服を汚して…洗濯かな…」

「いややっ…意地悪っ…」

「お前が下手な小細工なんてしようとするからだろ。でも、ま…毎年、ワンパターンってよりもぞくぞくしていい演出だったぜ」

 つまりは全てお見通しだったってことらしい。

「そんな…」

「で、どうしたい? このままがいい? それともちゃんとする?」

 慣れた手つきに堅くなって来た昂ぶりが窮屈だと啼いている。トレーナーにもぐりこんだもう一方の意地悪な指先がきゅっと胸のアクセントを掴んだりするから余計に疼きが激しくなる。

「…もっ…わかったからっ…」

「それじゃ、答えになってないよ」

「もっ…やっ…出してっ…それ…ちゃんとしてっ…」

「了解! じゃ、お望みのままに…」

結局、そんなこんなで今年も軍配は火村にあがってしまったようだった。

 気が着けば、俺は新しい年を火村の腕の中で迎えてしまっていたのだから…。

 うーん、一年の計は元旦にあり。
 今年も結局このパターンなのかなぁ。

 溜息をつきつつも、決してそれがイヤではない自分に気づいて苦笑する俺だった。