ジェラシー
「もう…いい加減に…んっ…」
抗議しようとした唇が再び塞がれた。いや、正確には再びとはいわないか…三度、四度…そんなもんじゃ足りない。
一体何度目になるんやろう? なんて思考する力は、差し入れられた舌に口腔を弄られる中でわからなくなる。
舌だけじゃない。
俺の抵抗が治まったとみるや否や、抱き締めていた力が緩む。
そして、動きだす指は脇から腰へと緩やかに降りていく。それだけでもう、学習能力のある身体が勝手に反応し始めている。
「…んっ…んんっ」
よじった弾みに触れてしまった火村の昂ぶりはもう充分、アツくなってる。さっきイッタばかりなのに…。もう?と思わず感心するほどだ。
この底なし野郎と詰ってやりたいところだが、そんな事を言おうものなら『お前もな』と返ってくるのがわかりきっている。
だって、もう…火村に触れた俺のモノも充分に熱い。火村だってわかっている。微妙な動きが証拠。唇の端、零れた吐息に火村が微かに笑った様な気がする。
まだまだ余裕って事か…と、少し悔しくなった。
だって、いつだって、火村が余裕で。俺だけこんなに追い詰められていくなんて…。そんなんずるい!
何か反撃したいけど、右腕は火村の身体に引かれたままだし、左手は頭上で火村としっかり握りあってるし…。唇はますます激しく吸い上げる舌に追い上げられてるし。
まじに余裕なんかない。
その時、偶然に離れた口づけ。
「悔しいな…」
まるで俺の心を読んだかのような一言。それが火村の唇から発せられたと気付くまで本の少し時間がかかった。
「…何で、火村が言うん?」
「何でって…。お前何か考え事してただろう? こんなことしてながら…」
するりと脇を触れる指にぞくっと震えが走る。
「…こんなにお前に夢中なのに、お前が他の事考えてるなんて、悔しいじゃないか」
小さくこぼれた吐息を再びのキスにかすめとる。
「俺と居るんだぜ。俺の事だけ見てろよ、俺の事だけ考えてろよ…」
覗き込んだ眉が少し怒ったように見えて、何だかおかしくなった。
「あほやなぁ…」
思わず笑った俺にますます眉間のしわが深くなる。
「あーあー、どうせな。いつだって俺の方がアリスに夢中なわけだ」
何を勘違いしたのか、ふてくされる火村が妙に可愛く見えてしまう。
「ほんま、あほやな」
「お前なぁ」
「ストップ。いいから人の話しは最後まで聞けって。まず振りだしから違うんやって」
「違う?」
「だーかーら、口を挟むなってば」
しっと人差し指を火村の唇の前に立てる。うんうんとうなづく火村は続きをと目で促した。
「俺が考えてたのは火村の事なの。もうあんなにしたのにさ、ちょっと火村が触れたらまた感じてまう。あかんとか無理とか思っても火村のキスに…指に俺は簡単に高ぶってまう。なんでって思うけど気持ちより先に身体がそうなって…。俺だけがこんなにすぐにとろとろにされるのって悔しいなぁ…なんて思ってたらさ、火村が『悔しい』とか言いだしたから驚いたんやんか」
わかった?と言葉を切るけど、火村はまたしても首でうなづくだけで何もいわない。しつけされた犬みたい、なんてふと思った自分が笑える。…でも、この状態はまさしく『待て』と止められた大型犬だ。
「もう、答えていいで」
ところが、今度は火村はだんまりだ。自分の指の代わりとでもいうように俺の指をやんわりと噛んで火村はしばし思案してから、深く溜息をついてからようやく言葉をつむぐ。
「…ってことは、アリスがしたいとかいうわけか?」
「は?」
「いや、だから俺にされてばかりで悔しいから、自分もしたいって事だろ?」
「へ?…」
何か違う?
「ま、そりゃそうだよな。お前だって男なんだから、そいつを収める鞘が欲しいって思うのは当たり前だよな」
「え? さやって…え…ええ? それはちょっと…」
しどろもどろになってしまう。だって、それは俺が火村を抱くって事? それは不思議と今まで考えた事もない事で想像がつかない。
「何だ、違うのか」
でも、首を竦める火村にちょっと興味が出て尋ねてみる。
「火村は…いいん? もし、俺がそれを望めば…」
「…実のところ…考えた事もなかった」
とても素直な一言に、笑えた。
「実は、俺もや。ま、火村がそれで充たされるなら…試してみてもいいけど…。でも、痛いで? まじに最初は…」
もう十年以上前の話だけど未だにあの痛みは憶えている。勿論今だって平気なわけじゃない。ただ、慣れとはすごいもので、すぐに快感に摩り替えてしまえるけど。でも、別に火村にそんなのに慣れてもらおうとは思わないし。
「アリスのなら平気じゃないか?」
1.2.3秒後、火村の視線の先を見て、意味がわかった。
「ぬぅわんだとーーー!!」
し、失礼な!
むくっと起き上がろうとした俺を身体ごとのしかかって止めながら、火村はにやりと笑う。
「嘘うそ。立派だって…こんなに立派だもんな…」
言うや否や、身を動かして俺に吸い付く火村の口。
「ちょっ…もぅ無理やっ……」
二回もイッタ後やって!
これ以上出すものなんて…残ってない…。
そんな若さもない!
筈なんだけど…。
結局、巧みな舌使いにあやされて、俺はぐんぐん追い上げられていく。
やがていつのまにか差し入れられた指にあのスポットを探られて、あっけなく俺は果てる。
「ま、でも、さっきのはマジにするなら俺にも覚悟ってのがいるからな。百年ぐらい待ってくれたら…考えてもいいけど…」
『ご馳走様』と嚥下した口がそんな言葉を紡いだけれど、霞んだ思考の中では、もう何がなんだかわからなかった。
書き終わった私の一言は「エロ・コメ」になってしまった…って言葉でした。
実は『ダブル・ジェラシー』というリクエを頂いていたので、お互いがお互いに悔しがるって感じの話を書いてみたかったのですが…。まーあ、メロメロですね、お互いに(笑)