十五夜の猫…後編…


 びっしりと…閉じているはずの窓…。
 でも、どこか潮の香りがするのは、ここが海だから。
「……んん…んっ……」
 外になんて聞こえるわけはない…そう思ってはいても…。
 押し殺す声。
 いや、喘ぎ。
 狭い車内でそんな行為を行う事をアリスは嫌っている。
 無論、狭いからではなく、そこが外だから…。
 
「いやっ…なぁ…止めてっ…いっ…」
 唇を塞いでいた火村のそれが離れた瞬間に否定の言葉を囁くと、戒めのようにその耳たぶを噛まれた。
「…素直になれよ…こんなにしてるくせに…」
「あぅっ!!…ぁ……やっ……はなしっ…」
 キスの合間に器用な手が外していたベルト…そして忍び込ませた指にすでに反応を返している牡をぎりっと摘ままれ…そして…やんわりと弄られ…。
 抗う声から力が抜けていく。
「…そんなにイヤか?」
 耳元の擦れた囁き。
「だって…こんなん…んっんんっ…」
 聞いて置きながら返事なんてさせてくれない意地悪な動き。それでも、続けようとした言葉を再びキスで封じ込め火村は一旦放しアリスのズボンを下着ごと引きずり下ろした。
「…ぅっ……」
 寒くはない。でも、纏っていたものがなくなっていく心細さに震えがくる。といっても、シートの上で止まったまま上手く剥がせないのか、火村は少し身体を浮かして協力を促す。
「腰、浮かせよ。窮屈だろ、そのままじゃ。汚すしな…」
「イヤやって…なぁ…頼むから」
 部屋に戻って、と続けたかった言葉を遮って、火村はドアレバーに手をかける。
「そんなにイヤならドア開けてやろうか?」
「何言って…ちょっ」
「嫌なら降りろよ、止めないぜ。ただ、降りないなら俺は止まらない。どうする? アリス」
「なっ、あほかっ…そんなんっ!!」
「5,4,3…」 
 どうしてそんな馬鹿げた二者択一に付き合わねばならないのだと疑問を返す余地を与えないカウントダウン。
「2…いーち…」
 ふと視線を窓の外に送る火村の眼差しは真剣。
「火村っ…やめっ…わかった、わかったから!!開けたらあかんっ!!」
 思わずアリスはその腕を取り、叫ぶ。
「…じゃ、強力して…ほら」
 くすくす、ご機嫌な声があがる。
「ひむらっ…君…」
 図られた、と思っても後の祭り。
「男に二言はないよな。それともやっぱり降りるか?」
 その手は既にスタンバイされていて…。
 ぎっと睨んだまま、それでもアリスは促されるまま、腰を浮かした。

「…あ…あぁぁ…んっっ…」
 どうしても洩れる声を必死で堪える。それが余計に火村を熱くする。
「どうした…?」
 2本の指が今アリスの中を掻き乱している。…もう一方の指はさっきまでアリスの熱い昂ぶりを扱いていたのだが、今は逆にその根元をしっかりと握りしめる戒めと化している。
「…ぅ…んんん…もうっ…」
「どうしたい?」
「…い…せて…」
「一人で?」
 くいっとそこを広げられ答える事も叶わずにただ首を振る…。
「入れていい? ここで…イカセてくれよ…アリス」
「なっ…あんっ!」
 なんでわざわざそんな事聞くんだ?!
「…答えがないぜ。アリス。このままずっと…こいつに掻き回されてるほうがいい?」
「やっ…あぁぁぁあっ」
 一旦光れた指が更に意地悪に動き始めたのは、本数が増えたせいなんだろう。
 狭い中をばらばらと擦られて、息があがる。
 でも…それが与える快感を知ってはまった身体は決して拒まない。それどころか、動きに合わせてもっとと強請るように収縮を繰り返す。
 それは…足りないと…。もっと…欲しいと…。
 息が上がる。
「アリス?」
「…も…う……来てっ……奥っ…」
 求める。ただ、その熱をなんとかしてほしくって。もっと…その奥を…火村しか知らない…そこを突いて欲しくて。
 精一杯、ねだったのに。
「…届かないよ…指じゃこれで精一杯!」
 意地悪な指に広げられ、それはそれはで感じるのだけど…でも。でも…。
「あっ…うっ…ちがっ…もう、火村が…火村でしてっ!」
 涙混じりにせがんでしまう。
「もうっ…なんとかしてっ…お願いやから…助けてっ、ひむ…らっ」
 すがってしまう。
「わかった。一緒にイコウな」
 優しい声と共に引き抜かれた指。
 そして、押し入ってきた熱い熱いもの。
「うっ…あっっっ…いやっ…あっ…もっと…ゆっくりっ…んんっ…ぁっ」
「いっぺんに全部は無理だって。もっと力緩めて、アリス。ほら…居れてごらん」
「あっ…んぅ…はっ…」
 狭い車内だ。動くといっても簡単はないけれど、本能のままに…火村を少しでも奥に迎えようとアリスは腰を浮かす。
「いい子だ」
 その隙を狙ったように膝を入れ、突入してきた火村に望んだ最奥まで浸入されて。
「あっ…ーーー」
 アリスはぶるりと見を震わせる。
「締めすぎだっ」
 掠れた声が耳元に…。でも、そんなのコントロール出来やしない。
「もっ…もぅっ…ぅぅ…あっぁ…」
 燻っていたものが沸き立って、アリスはたくさんの雫を溢れさせた。

 勿論。それでは終わらない。
 アリスの中に留まった火村はまだまだゲンキだから。 
「…あっ…ん…うご…とって…まだっ…待って」
「待てない」
「あぅ…ひむっ…ひむらっ…あっ…いいっ…い…」
 もう止めてとは言わない。
 ここがどこかなんて、アリスの頭にはないから。
 もう、どうだっていい。
 たとえ、誰が見ていようがもう止められはしないのだし…。
 今は、ただ、もう…望むままに暴走するしかないから。
 
 
 ただひたすらに。
 獣になる。
 満月の夜。


 でも…いやじゃない…と思ってしまう自分が居る事をアリスは再確認させられる。
 いや、寧ろ…求めてしまうのは自分の方。
 …浅ましく欲しがっているのは絶対に自分…。
 十五夜の魔力にとりつかれているのは…自分なのかもしれない…。
 
 火村はただ、そんな自分を暴いているだけなのかも…。

 なんて、落ちて行く意識の片隅でアリスはふと思った。