心のままに
身に纏うものがなくなる。 それは普段なら開放感に溢れた行為なのに、今日は違う。 とても不安になる。 素肌に触れる空気の質感。 平生は当たり前すぎて感じない、そんなものさえ感じる研ぎ澄まされた感覚に震える細胞たち。 微かな肌の反応に問い掛ける火村にしても、きっと同じ。 「‥寒いか?」 びくりと震えた肌に問い掛けるけれど、答えはない。 やんわりと左右に振られた首。 否定か肯定かも定かではないけれど。そんなことは関係ない。 大切なのは、この想いだ。 どんな壁も、どんなタブーももう意味を持たない。互いへの愛しさだけが全てだから。 何もかもを知りたい。ただひたすらに…触れていたい。 唇が素肌に降りる。 指先が背中を流れる。 そのどちらもがアリスの身体を自在に進んでいく。 あちこちに何度も何度も、触れられて。 初めての感触に戸惑っていたアリスが落ち着くまで丹念に施される優しい愛撫。 「んっ…あんっ」 思わず、聞こえた甘い声は一体誰のものなんだろう。 「アリスっ」 「…ぁ……っ…」 こんな自分は知らない、とアリスは唇を噛み締めた。 「いいんだぜ。声…出して」 すかさず、唇の端から触れてくる火村のそれは熱い説得を試みる。 「だって…ん…はあっ」 忍びこんだ舌に、ざらりと口腔の上を舐められても拒めない。 嫌じゃないから。 寧ろ、足の先までどくどくと血が騒ぐみたいだ。 うなじにキス。 肩にキス。 降りてきた唇は、胸もとで少し…意地悪に止まる。 同時に。 静々と辿ってきた指先の軌跡が、なだらかな曲線をそっと辿り、更に奥まった場所へと意図を持って進む。 「…あかっ…急ぎすぎっ…」 思わず逃れようとしたと腰が強い腕に引き寄せられる。 「‥火村‥」 決して否定ではないけれど、その意図を問わずにはいられないアリスの呼びかけに火村は淡々と言い放つ。 「大丈夫だ。アリス‥」 証拠づけるように跡を刻みながら火村は囁く。 「もう…こんなに…俺を待ってる…」 「…うっ」 ほんの少し。爪のあたりだけ、含まされた異物感。 「恐いか?」 「ちがっ…」 ただ首を振る。だって恐いんじゃない…。でもわからない。どうしていいのか。 「見てろよ、俺だから」 促され、見つめる視線が絡み合う。 「ひむらっ…」 「識りたいんだ…全部。お前のこと…」 「あぁっ」 忍ばされた指が更に奥を目指していく。 でも、五感の全てがそこに集まることを火村は許さない。 アリス自身に添えられた指が袋や付け根を怪しく動いて。 「…やっ…だめっ…ひむっ…んん」 感じてしまうから。これ以上気持ち良くなったら、きっと自分を見失ってしまう。 そんなアリスの言葉の裏まで『わかってる』と火村は笑う。 そう。 知ってた。 こうなるって事…。 きっと出会ったあの日から、知ってたから。 「愛してるよ」 「俺も」 もう…どうなったっていい 一つになりたい……。 想いのままに、心のままに…。 夜はすぎていく。 |
ペーパーの裏に載せる話を書いていたのですが、どんどんと思惑から外れてしまったので、急遽変更してしまいました。 でも、埋もれさすのも勿体無いのでupしてみました。裏ってほどではない…と思うんだけど…。どうかなぁ。 |
月のかけらに戻る 目次に戻る |