「なぁなぁ、火村」
「ん?」
 振り向いた瞬間に近付いた唇。
「おい…手が…」
 唐突なアリスからのキスに火村は目を白黒させる。

 ここは台所。
 火村の手は洗いかけの洗剤のシャボンだらけ。
 そんな火村の首にアリスは腕をまわしてきた。

「すき‥」

 少しだけ離れた隙間にそんな言葉をぽつっと置くと、またすぐに重なる口づけ。
 今度は更に情熱的に、舌先をノックされて‥。
 何だかいつもと逆パターンの展開だな‥なんて掠めた思考は、一向に離れる気配を見せないアリスの熱心さにすぐ消える。

 おいかけあう
         「「「「「「「だってそれは
 絡み合う
         「「「「「「「とても愛しいものだから‥
 求めあう
         「「「「「「「アリスから火村に 
 与えあう     
         「「「「「「「火村からアリスに 
 感じあう
         「「「「「「「二人でしか、分け合えないこの感覚‥
                
「‥ん‥」
 うっとりと零れる声にもしも色があるのなら、それはとてもミルキーピンクな感じ。 ふんわりと、甘い薫りさえしそうに漂って。
「‥んん‥‥」
 しばし現実と隔離された二人だけの空間に浮遊する。

 どれだけの時間。
 そうしていたのか。

 ふいに。
 始まりと同じ、唐突に唇が離れ、ゆっくりと戻ってきはじめた現実の世界。
 洗い場の水音。
 居間からはテレビの音。

「…はぁ……」
 二人の間に残された名残惜しげな銀の糸がふっと切れて、アリスの顎に流れていく。
「‥どうした?」
 柔らかな声で、火村は問う。
 後ろ手に手探りで取ったタオルでようやくシャボンを拭い去った手をアリスの頬に差し伸べながら。
「なにかあったのか?」
 少しずつ静かに開いた瞳に問い掛ける。
「…おめでと……」
 小さく首を振りながら、アリスはほわっと微笑む。
「ん…?」
「年…開けた」

「あぁ…そういうことか」
「うん。そういうことや」
 それ以上、言葉はいらない。

 一つの年を二人で過ごせたこと。
 新しい年も二人で過ごすこと。

 当たり前だけど、とても大事な瞬間をふいに確認したかったアリスの気持ちは手に取るようにわかるから。

「…今年もよろしく…な」
 ぱっと抱きついて来たアリスを。
「当然」
 言葉と同じくらい強い力で火村はしっかりと受けとめた。

────── A HAPPY NEW YEAR!
                  ミレニアム2000


ペーパーNo.2の裏話。お年始の御挨拶がわりでした。