長電話


久々に朝井さんから電話をもらって、ついつい話し込んでしまった。
ちょうど読んでいいた本やら、話題になっている映画やら、出版社の話やらあれこれと次から次へと出て来る出てくる。
女子高生の長電話ってこんなものなのかも…なんてふと思った頃。なにやら人の気配がした。
こたつから抜け出して、覗き込む玄関に見慣れた影。
「あれ?」
『と゛うしたん、アリス』
「あ、いえ…別に」
『ははん、わかった。火村先生が来たんでしょ』
「え?」
思わず絶句する。
だって、その通りだったから…でも、なんで?
『んじゃ、きるわ。先生によろしくね』
「え、ちょっ…、朝井さん? もしもし? もしもし?』
尋ねる間もなく、一方的に切れてしまう。
「なるほど、朝井女子か」
 入れ替わるように近づいてきた火村は大きく息を吐いてこたつに座り込む。
「うん、そうやけど、なんで? どうしたん?火村…」
 今日は来るなんて一言も言ってなかったくせに。
「なんだよ、アポなしはまずいって?」
「いや、そんなことないよ、嬉しい驚きだったけど」
「…お前さ、一体何時間話してたかわかってるか?」
「え?…電話?」
「あぁ、昼からずーーっと話中だったぜ。で、あんまりだから受話器外れてるのかと思って携帯にかけても留守番なんとかってのに繋がるし…」
「あ、ごめん。コートの中に入れっぱなしで、マナーモードになったままや」
「そんな事かもと思ったけどな。…なんとなく気になって走らせてたらついちまったんだよ」
「…そうなん。ごめんな」
「いいや。しっかし…本当長電話だな」
「そんなに長かった?」
「あぁ、少なくとも3時間はたったな」
「そんなに?!」
 自分でも驚いた。
「向こうからかけてもらったからって、幾らなんでも長いぞ」
「うん…って、なんで知ってるん?向こうからやったって…」
「そんなの当たり前だろ、お前、自分からかけたら用件だけですぐ切るだろ」
「えぇ、そっか?」
「そうだよ。自分では気づかないだけだろう」
「へぇ…俺ってけちやったんやなぁ」
「ま、その方が俺は嬉しいけどな」
「…けちな奴が好みなんか?」
「ばーか」
 呆れたように呟いた唇が、アリスのそれを塞ぎにかかる。

「俺のために動かしてたらいいんだよ、これは…」
 なんて言葉を唇ごしに囁かれては反論の仕様もない。
「ごめん…」
 謝りながら、そんな独占欲って…なんだか可愛いとアリスは微笑んだ。