天使降臨
月明かりの中、膝の上にすっと降りてきたアリスだけがきらめいて見えた。
まるで天使のように…って。
「そんな訳ないのにな…」
 呟いたつもりはなかったけれど、それは声になっていたらしい。
「イヤな奴」
 唇の端をやんわりと噛まれる。
「何が?」
「せっかく俺が誘惑してやってるってのに…その気がないなら止めとこか…」
 からかうでもなじるでもなく真顔でそんな事を言うあたりがなんともアリスらしい。
「バカ。ないわけないだろ」
 引き寄せる腕をぐっと踏み止めてアリスは唇を尖らせている。
「だってさっきから変やで。こんな状況で自分の世界に行ってまうなんて。ルール違反や」
「ごめん。でも、アリスの事しか考えてないぞ」
「またまた無理しなくったって」
「本当だってば…。どうやったらアリスが悦ぶのか、精神誠意考えてるさ」
 真剣な瞳が覗きこんでいる。
 ふぅ…と息を吐いてアリスは力を抜くと火村の腕に滑りこんだ。
「なんかそういうのって君に似あわん」
 どうして…の問いかけには答えずにアリスはその唇に己のそれを押しつけて、そっと目を閉じる。
 促すようなそのそぶりに火村は応えて、すぐに口付けは深くなる。
 そう…。何も考えないで。
 ただ求めて欲しい。
 溢れる思いを伝えるように…。
全てを余さず届けられるように…。 
 もっと…乱暴でもいい。
 もっと激しくてもいい。
 本能のままに、素のままの自分を晒け出せばいい。
 少なくとも自分の前でだけは火村は思いのままで、傍若無人に見えるくらいわがままでいいと思うから。
 ああ見えて結構気を使って生きてるって知ってる。
 誰に頼るでもなく、何にすがるでもない。
そんな男が何一つ気を使うことなく、無意識で剥き出しのままの自分で在る場所が存在してもいいはずだから。
何も考えずに好きなだけ…。
君のしたいままに…して…。
 そんな思いをありったけ込めて、アリスはキスをねだる。
「…もっと…」
「どうしたんだよ」
「いいの…もっとやって…」
 無論、そこに依存はないから。
 長い長いキスの合間に、伸ばされた手が背中を伝わり降りていく。
「…っ…ん」
 思わずびくつきながら、声が漏れたのは感じたせい。
 知ってて、やんわりと行き来するその意地悪な動きも…好き。
「アリス…」
 ちょっと掠れた感じで呼ぶ、その声も好き。
「ん…」
 舌を絡ませながらも、その意図を察して腰を浮かす。
 器用な手が忍び込むのに協力するために。
「…もう…こんなにしてんだ……」
 そっと擦られたアリス自身がそれだけで容積を増す。
「だって…火村…あ…っ…」
 つっと弾かれて傾いだ脚が何かにぶつかったらしくばさばさと何かが崩れ落ちた。
「ごめんっ…」
 ここは火村の神聖な職場だったと、ふと思い出す。
「いいよ。窮屈だろ」
「ううん」
 どこだっていい。ただ、火村を感じる事さえ出来ればと首を振るアリスにくすっと笑って。
「こっちの事だって…ま、確かにここじゃ汚さないようにしねぇとな…」
 がちゃがちゃとせわしなく外したベルトから引きずり出されたモノに火村は唇を寄せる。
「あぅっ…火村っ…」
 巧みな舌使いに翻弄され、結局のところ先に自分を失うのは結局アリスのほうだ。
 もっと…もっと…もっと…。
「…あっ…ぁああっ…」
 髪と肩を無我夢中で掴み、アリスは愛しい男の思いを一心に受け、見事なまでに咲き誇っていくのだった。