寝  顔


「ん…」
 小さな声がしーんとした部屋に響く。
「何?」
 問い掛けてみても、それは夢の世界の住人のもの。
 すやすや、と子どもみたいな顔でアリスは眠っている。
「全く…、おまえいくつなんだよ…」
 勿論、同い年と言う事は百も承知。
 でもつい…口にしてしまいたくなるほど、この寝顔は罪作り。

 そっと…額に唇を寄せる。
 …頬にも。
 …鼻にも…。
 唇にも……。
 
 軽い口づけに目覚める気配はない。
 それ程に激しい時を過ごした後だ。
 当たり前といえばそうだが。
 つっと触れた指の先…。

 ほんのの少し前についたばかりの紅い痕がアリスの襟元から覗いている。
 
 そういえば。
『こっちも…』と、キスをせがんだその表情は確かに大人だったな。
 いや、それ以上に。
『もう、来て…はやく…っ…』
 なんて言葉を耐え切れず漏らすアリスの艶やかさはもう充分に熟れて…。
 誘われるままに、そのカラダを暴く俺の腕の中、今が盛りと咲き誇っていったっけ。

 苦痛に耐えながらも、俺を奥へと誘い込み、掠れた吐息を零し続けた唇から『火村』と紡ぎ出されるだけでもう…俺は堪らなくなる。
 ただ、ひたすらに。
 求めて、求めて…。
 全てを埋めて。
 誰よりも深く。
 壊してしまいたい。
 底が無い欲望のままに突き進む俺の全てをその身一つで全て受けとめる。
 いや、決して受け身なだけでなく、全てを俺から奪い尽くそうと絡み付いてきた。
 唇、腕、脚、そして内部…。
 だから。
 全てを注ぎ込むまで。
 全てを零し尽くすまで。
 求め合い、奪い合い…高め合い…。

「…お前だけだな…」
 そんな対等な存在。
「ってことは、やっぱりオトナだな…」
 くすくす。
 巡り巡った結論に、自ら苦笑する。

「うん……」
 まるで答えるかのように。
 ふわり…
 寝返りをうったやわらかな髪が俺の指先をくすぐった。




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