君を刻む瞬間

「…やっ…」
 赤く尖った小さな果実を舌先で転がすと、手の中のアリスの先端が指を湿らせていく。
「……んんっ…」
 今更なのに。
 必死に自分の指を噛んでまで喘ぎを堪えるアリスに気づいて、火村はこの上なく優しい笑みをもらす。
「ダメだって…噛んだら…」
 そっと延ばした手をその指に絡めて、縫いとめる…。
「やっ…」
 全く、どこまで可愛いのだろう。
 いつでも初々しくて…。
 それでいて、妖艶で…。
 たまらなく愛しさがこみ上げてくる。
「目開けて…」
 そっとまぶたに口付けを落とし、囁くと。
 うっすらと滲んだその瞳から零れる雫。
「もう、いややってばっ…」
 拗ねるような抗議は、当然と言えば当然。 さっきから、アリスが昂ぶる気配を見せる度にわざと焦らしてきたから…。
『そこやないっ…』なんて…重々承知で僅かにずらした指の動きに、アリスはもどかしげに揺れていた。
 焦れて、焦れて…。擦り付ける様に、ゆらゆらと…自分でも気づかないそんな動きを繰り返しながらも、『いや…』なんて嘘を吐くから余計にそそられたせいだ。
「…ごめん。焦らし過ぎたか?」
「あほっ…」
 仄かを通り過ぎて真っ赤になったアリスがたまらない。
 全くどうして、新鮮な反応を返してくれるのだろう…。
 くくっと含み笑いが漏らす火村の手をぎゅっと握り返して、アリスは唇を尖らせる。
「何やねん! こんな時に笑うなんて…失礼や!」
「悪い悪い。アリスが余りに素敵だから」
「訳わからん…したくないんやったらどいて」
「まさか。こんな中途半端で終わるわけないだろうが…まだ、こんなだぜ」
「ぁんっ…」
 触れ合う互いの熱は、もう充分に熟れている。
「…刻ませて…お前の中に」
「…そう…言ったやん」
 小さく頷いたアリスの承諾は荒々しい口付けに飲み込まれ…。
 
 伝え合う想い。
 繋ぎあう時間。
 
 滾るような情熱を注ぎあうその瞬間も
 枕もとにそっと置かれた新しい時計は
 二人を見守りるように優しく刻み続けているのだった。
 

 
 
超短編で失礼(笑)
裏に置くつもりもなかったので、ちょっと逃げたかも(爆)
でも、まぁ。幸せな二人をちょっとだけ…って事でお尋ねいただきありがとうでした。