ぼくのうち   ひむらまき

ぼくのうちにはおとうさんがふたりいるよ。
そういうとみんながへんっていうけど、ぜんぜんへんじゃないの。
ひとりはひむらで、もうひとりはありす。
ふたりとも、とってもなかがよくて、いいおとうさん。
ひむらのほうが、おこるとこわいけど。
でも、ひむらがいちばんこわいのはありすだっていうから、うちでいちばんつよいんはありすだよ。



「何でやねん?」
 慎生の力作にアリスが突っ込んでいる。
「事実だろ?」
「そーか? 俺、こわないで」
「普段はな。でも、怒ったら怖いだろ」
「そんなん、怒らすことする方が悪い」
 きっぱりと言いきるアリスに、確かにと火村は肯く。
 最近でアリスがかんかんに怒ったといえば、半月程前か。
 お迎えの時間があるからあかん、と釘を指されたのだがセーブが効かなくて、襲ってしまったあの日。
 フィールドワーク後の不安定さもわかっていたからか、仕方ないと一度は受け入れてくれたアリスだったが、二度目、三度目となると、切れた。
『もぅ…無理っ…てばっ』 
 かすれた声で訴えながら、身体の奥は従順に火村の雄を包み込み、絞め付けてくれた。そして、自らもまた鮮やかに咲き誇ってくれたのだ。
 無論、その後、眠ってしまったアリスの代わりにお迎えに行ったのは火村で。
 連れて帰って来た子供達にも『アリスはお疲れだから起こしちゃ駄目だよ』と夕食も作った。それなりに、アフターフォローはしたつもりだったが、その後もアリスは超不機嫌で…。
 あの静かな怒りが一番怖い。口を聞かない攻撃はなかなかに堪える。 
 結局、お許しが出るまでに一週間はかかったのだ。
「アリスは笑顔が一番だよ」
「…何を突然」
 ふわりと抱きしめてきたアリスが目を丸くしている。
「俺にとっては、アリスの笑顔が何よりの憩いなんだ」
「なら、怒らせるようなことはせんときや」
「そうだな。では、奥様。キスをしてもよろしいですか?」
「…キス、だけ…やで。もうすぐお迎えの時間やねんから…あんなんは…」
 どうやらアリスも同じ事を思いだしていたらしい。
「重々承知しております」
 丁寧な物言いにくすくす笑ったアリスの唇に、優しいキスがおりてきた。



2004.10.31.のペーパー裏話でした。