春 雷 |
薄明り。 晒される素肌。 全て暴いてしまうはずだった。 嘘、偽りならば……── ☆ 「───っ!」 声にならないような叫びと共に崩れ落ちてくるアリスを受け止める。 その涙は何? 青ざめた顔の苦痛の跡を見て取りながら、それでも足りないと、まだ足りないと思ってしまう俺のこの渇きは何なんだろう…。 ぶつける。 叩きつける。 捻り込む。 ───爆発する それでも足りない… もっと欲しい もっと狂わせたい もっと泣かせたい どうして、お前は俺じゃないんだろう… 荒れ狂う想いのまま蹂躙し続けたその内部から抜けた瞬間、うっすらと目が開く。 「…ど…う……て……」 何かを呟こうとしたのか唇も微かに動いたけれど、それ以上、読み取ることは出来ない。 ふわり、と俺の腕に崩れ落ちてしまったから。 何を言おうとした? どうして、こんなことをする? どうして、抱いたりする? どうして、傷つける? どうして どうして どうして そんなこと、わからない。 じゃあ、お前は何で此処に居る? 逃げることは容易だったはず。 冗談混じりで好きだと言ってたあの頃とは違う。 俺の本気を見せ付けるように束縛してきた。 お前の傍にあるもの全てを嫌悪して、排除して、お前を孤立させてきた。 正しいか、正しくないか、そんなことは知らない。 理屈でもない。 そうせざるを得なかったから、そうしただけ。 全ては俺のエゴイズム。 気を失ったままのアリスを静かに寝かせて、ベッドサイドに腰をかける。 シャツ、ズボン、ベルト… がむしゃらに奪い取った衣服があちこちに乱れ散らかっている。 抵抗は最初だけ。 諦めたように、目を閉じたアリスはされるがままに身体を開いた。 いや、無論、この手で、この身体で、開かせたのだ。 我ながらよくもあそこまでと思うほど、強いてしまうのか解せない。 でも、 全てが欲しいから。 無理遣りの挿入に顰めた顔が許せなくて。 俺を見ろとその瞳まで束縛して、涙で滲む瞳に征服者の何たるかを見せ付けた。 その全てを…お前は… 拒みはしないといえるのか? 「…っ…」 小さな声にゆっくりと首を向けると、 蒲団から顔だけ出したアリスの真っすぐな瞳とぶつかった。 「火…村…」 いつもとほとんど変わらない、落ち着いた表情を見せるその余裕に腹が立って。 すぐにまたぷいっと背を向ける。 「どうしたん?」 どうしたって? こっちがいいたい。 なんで、そんな平然としていられる? 「なんで、そんな顔してるん?」 見えなかったくせに。 こんな暗い中で。 俺の表情なんて、わかるわけない。 背中を向けてたんだ、今の今まで。 「…後悔…したん?」 不安げな声と共につつっと忍び寄った指が背に触れる。 「なぁ……」 たまらない。 がばりっとその蒲団をはぎ取って、再び腕の中に押さえ込んだその身に問う。 「…お前は? なぜ逃げない! 何故、諦めた? 俺は…お前を喰らいつくしてしまうだろうに…」 まるで鬼のように。 そんな俺を、アリスは抱き締めた。 ─────ヒムラガイイナラ… 耳元で囁かれた魔性の声。 狂っているのは、俺だけじゃない。 囚われたのは…。 窓の外、春の嵐が吹き荒れている。 夜はまだ長い。 |
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