恋人達の夜−2
 どうして…と思うほど、その肌は気持ちいい。
 決して柔らかくはないその胸に這わせる指が震える程に…。
 ゆっくりと摘む二つの蕾。
「あっ…」
 以前はくすぐったいとしか言わなかったアリスから零れた嬌声。そこで感じる事すら認めたがらなかった遠い日と違って、今は素直に感じたままを伝えてくれる。
「…アリス」
「あ…かんっ…」
 小さな拒絶は決して言葉どおりの意味ではないと知っているから…。囁きをその胸に落とすと、さらにビクリと肌が震える。
「…ぁ…あっ…ん…」
「いい声…」
「言うなっ…あっ…あっ…放して…やっ…ぅん…」
 いやいやと抗うそぶりとは裏腹にしがみ付いている腕は俺を掻き抱く。更に強く、強く…。その男故の昂ぶりを擦り寄せてくる。布越しに触れ合う熱に、もう焦らす時間は必要ないと教えられて。
「もう…充分だよ。俺のも…ほら」
 正直なボディトークに答えるように、忍ばせた指を堅く育ったものに滑らせる。
「あっ! やっ…火村っ!」
「嘘つきだな。もう、たまんないくせして…」
「だからっ…もっ…このままが…いやっ」
 ビクンと手の中でそれが更に脈打つ。
「なるほど、俺もだ。」
 了解の印を肌に残して、俺は更に深くアリスを侵略するべく動きを進める。
 正直で、嘘吐きな身体が崩れ落ちるまで…、長くて短い夜を費やして……。



 聞き取れない呟きと同時にすっと伸された指が俺の背に意味もなく触れた。
「ん? どうした?」
 ほとんど吸ってないキャメルを揉み消して振り向く。
「…何でもない」と言いながら、三度目の後、声もなく眠りについていたアリスは眼を瞑ったまま…ぎゅっとすりよってきた。
「どうしたんだよ?」
 甘えた仕草。滅多に見せて貰えないそんな姿が愛しくて…ぐっと抱き締め返す。
「耐えられへんっ」
「ん? 何が?」
「…一年に一回、それも天気に左右されるような恋人なんて、いややなぁって」
 何の事だと問いかけて、そういえば七夕だったと思い出す。そんな少しの間をどうとったのか、がばりと身を起こしたアリスは上から浴びせかけるように、激しく言い募る。
「俺は…そんなん嫌やから。もし、火村が長い事どっか行くって言ったら絶対着いて行くからな」
「アリス…」
「自由業の特権や。どこへでもついていったる! 絶対! 離れへんから」
 きっぱり!
 宣言されて、熱くなる。
 心も…。身体も…全てが愛しさに燃え上がる。
「当たり前だろ。誰が離すもんか!」
「ほんまやな?」
「もちろん」
「ほんまに、ほんまやな?」
「当然」
「よかったぁ」
 にこりと笑みを残したアリスは胸の上に雪崩こんできた。
「アリス? おい、アリス?」
 驚く俺をよそに、スースーと。
 胸の上、聞こえてくるのは規則正しい寝息だ。
「なんだよ…全く…。アリス? おい…どうすんだよ…人に火をつけといて…」
 少々揺らしても、起きる気配はまるでない。
「なんて奴だ…」
あんな情熱的でロマンティックに人のこと誘っておいて…何だってんだ。
 溜息が出る。
 まじに夢でも見ていたんだろうか?
 いや、夢だとしても…きっとそれはアリスの真実だから…。 


 沸き起こる熱をいかにして鎮めるか…思案しつつ…その柔らかな髪を梳く。
「ま…いいか…。俺達には明日も、明後日も…時間はたっぷりあるもんな。…ありがとう…アリス」
 罪作りな恋人に苦笑いしつつ、俺は共に居れる事の幸せを噛み締めていた。





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