年の始めの…
「うわぁぁぁ」
「おお!」
あちこちで歓声があがる。
一年で最初の夜が明けていく瞬間。
水平線の向こうからほんのりと兆しを見せた新しい光がやがて空を、そして海を黄金色に輝かせる・
「綺麗やなぁ、あぁー火村。あかんて」
くるりと振り向いて、アリスは素早く火村の口元からキャメルを抜き去った。
「こんな時に煙草なんて吸うか? 全く…」
「こんな時って言われても、単に太陽が出てきただけの話だろうが」
太陽は沈み、また昇る。それは自然の摂理。毎日毎日繰り返される事。どうして今日だけ大騒ぎしなくてはならないのだ?
それが火村の言い分。
でも。
「それはそうやけどな。でも…御来光やんか!! 一年の幕開けって感じやろ? すごい厳かですがすがしくて。なんかさ、もう拝みたくなるくらい綺麗やと思わんかぁ?」
それはそれは熱心にアリスはその素晴らしさを説いてくれている。
「でもな。こんな人だらけの所でわざわざ見なくたっていいだろうが…まぁ、俺も行くって言ったけどさ」
「あ! こらっ……」
再び奪取したキャメルを口にした火村は、さっさと振り向き太陽に背を向ける。
「もう見たから、先戻るよ。アリスは満足するまで見てこい」
振り向きもせずひらひらと手だけを振りながら、人ごみを掻き分けていく。
「ちょっ…火村!」
こうなると呼び止めても無駄。それに今まさに昇っていく太陽をじっと見詰めるたくさんの人の中、迷惑なだけ…とアリスも小さく肩をすくめる。
「もう…何やねん」
はぁ…。
溜息と共に見つめるその情緒を全く解さない男のひょうひょうとした背がなんでああも格好いいのやら。
悔しいくらいにいい男。
「まったく…正月早々…」
せっかく来たのに…。
振り向いたアリスの目に、一年の始まりに相応しい堂々とした太陽が昇ってくる。
「…これなら一緒に楽しめると思ったのになぁ」
初日の出を見ようという話しになったのは、大晦日恒例の国民的音楽番組をBGMにたわいもない会話を重ねていた時だった。いや、話になったというのは正確ではない。アリスは計画的にその話を持ちかけたのだ。
別に約束をした憶えもないけれど、ここ数年、何かの節目は互いの部屋を行き来している。
今度の正月はアリスの家で過ごす事になっていた。そんな年は大概、北白川にはばあちゃんの身内が集まって来ている。長年の店子である火村は娘さん一家とも顔馴染で『一緒に』と声もかかるらしいが『先約があるから』とアリスの元に訪れてくる。それは火村なりの気遣いなのだろう。
昨日、火村が到着したのはもう夕方。娘さん達の顔を見て、ばあちゃんが一人でない事を確認してから出発してきたらしい。特製のおせち料理をお裾分けしてもらって。
到着するなり、キッチンに陣どって火村は夕飯の準備にとりかかる。それも毎年の恒例行事だ。別にアリスの家なんだから当人か作ればいいし、食べに行ってもいい話だが『火村のそば食べへんかったから、年越しした気分になれへんもん』なんて殺し文句を言われ続けて、これまたいつのまにかそれが当然になっていた。
「おそくなっちまったな」
料理に取り掛かった火村の横で、テーブルに置いた御節を覗き見てアリスは下鼓を打つ。
「うわぁ…うまそう!」
「こら、つまみ食い禁止だぞ」
「え、味見やって。ん、うまーい!」
「…お前なぁ…一体、いくつなんだよ」
「え? 火村と一緒に決まってるやんか。なんや、そんな事もわからんくらい耄碌したんか? 先生」
「お前こそ、いつのまにか小学生レベルまで退化しちまって…。まぁ、年取ったら子どもに返るって言うからなぁ…」
そんな応酬を重ねて、二人して噴き出す。
いずれにせよ、仲睦ましい二人なのだった。
洗物も終え、あとはのんびり…となった夜。今年も一年、色々あったなぁ…なんて振り返るアリスの話を聞きながら過ごす。
歌合戦か仮装大賞かといった感じの歌手の衣装を話題に、話があちこちへ飛んだと思うと突然、アリスが擦り寄ってきた。
「やっぱりなぁ…人間色々とチャレンジしてみなあかんなぁ。新しい年やし、何か新しい事してみいへん?」
悪戯な目に、何かたくらみを感じて一瞬火村は眉をひそめる。
「何をしろって?」
「あのな。提案なんやけど、今までしたことない事やってみよう」
うんうん、と一人頷いているアリスに、益々そっけなく火村は答える。頭の中ではぐるぐると『新年にする新しいこと?』とという問いかけがなぞなぞのように駆け巡っていたのだが顔には微塵も出さず。
「だから、何?」
「…ドライブいかへん?」
「こんな時間に?」
「うん」
ははーん。ぴんと来て火村はにやっと笑う。
「初詣なら、お断りだぜ」
ところが、アリスは当然とばかりににっこりと返してきた。
「わかってるよ」
火村と年越しをするようになってから、初詣には行った事がない。一応、口にはしてみていたが、神なんていないと言い切る火村が行く訳がないのは道理で。『神頼みなんて馬鹿らしい。ましてや、あんな人ゴミなんてまっぴら御免』とそっぽを向けられてしまうのも恒例の事。だから今年は作戦変更。
「ほぅ…じゃ、何?」
「初日の出見に行こうや」
「馬鹿…」らしいと言おうとした唇にしーとあてがわれた指。
「君がそういうの好きやないって知ってるよ。俺かってここで二人で過ごすの、好きやし…。でもな、火村と一緒にこんなとこ行ったなって…色々と積み重ねていきたいやんか。あかん?」
まっすぐな目で尋ねられて、嫌と言えるわけない。
きっとそんな事、百も承知でこいつは言っている…とわかっていても。さてどうしたものやらと躊躇した火村に畳み掛けるようにアリスはポツリと告げる。
「まぁ…火村がどうしても嫌っていうんやったら…いいけどな。見たことないし俺一人で出かけてくることにするから。…悪いけど留守番しててや。ごめんな…せっかく来てくれてるのに残して出かけて。でも、おせち料理もあるしのんびりしておけるやろ」
仕方ないもんなぁ、なんて呟いて俯いてしまう。そんなアリスの様子に、負けを悟る。
「どこへ行けって…」
恋人の望みに頷いてしまった火村だったのだ。
とはいえ…。
「何が後来光だ…全く」とかなんとかぶつぶつと呟きながらも、おんぼろベンツの窓からその様子を見ていた火村は、煙草を揉み消けすと、シートを倒した。
「うーっ…眠てぇ」
閉じた瞼を指先でごしごしとマッサージ。
確かに、年明け早々から夜中の三時に叩き起こされて、運転するなんてのは、新しい体験だ。いつもの年なら、夜の間中に活動して朝はのんびりしているはず。(…あえて、何をしているとは言わないが…)明石の海まで行きたいからと、時間設定までして目覚ましをセットするとさっさと眠ってしまったアリスに何から何まで先を越されて、キスすら出来ないままに年が暮れてしまった。その上、道すがらも、交替するからと言ってたアリスはすーすーと気持ちよさそうな寝息を立てて、寝てしまう始末。
その為か元気満々なアリスと違って、自分にはあの御来光とやらは眩しすぎた。思わず涙が出そうになったのは決して感動ではなく、疲れたせい。でも、そんなものでも見られた暁にはこれからずーっと思い出話として語られてしまいそうだ。それはちょっと御免こうむる。そんなこんなでアリスを残して早々に引き上げてきたわけだ。
「しっかし…たまったもんじゃねぇよな…」
一年の計は元旦にあり…なんて言葉が頭をよぎっていく。
やばいやばい。
今年もまた、アリスの「お願い」に振り回されてしまうんだろうか…。無論、いつもいつもそんなに無茶を言われるわけではない。別に取るに足らない事も多い。ただ、自分ではどうでもいいと思う事でも、ついあの瞳で『あかん?』と尋ねられると嫌だとは言えない。
結局のところ、いつでもアリスの手のひらで踊らされているのは自分の方。
「俺も甘いよな…」
あれこれと思いを巡らしているうちに睡魔の誘惑に負けて眠ってしまったらしい。
「あ、起きた」
ふわり…とした何かを感じて目を開ける。一瞬、どこに居るのかわからなくなって、その姿を確かめる。
「…アリス?」
「うん。俺…ただいま」
がさごそ。覗き込んでいたその影がどいて、そうか車の中だった…なんて思い出す程、しっかり眠ってしまったらしい。
「あぁ。…おかえり…。何だ…俺寝てたんだ…」
「うん。熟睡してた」
「何時だ?」
「ん? まだ8時すぎ」
「えっ? そんなに寝てたのか、俺」
驚いてシートを起こす。見ると周囲にたくさん連なっていた車は半減している。
「待たせたんだろ。悪かったな。起こせばよかったのに」「ううん。俺こそ…ごめんな」
恐縮そうにアリスは肩をすくめた。
「何が?」
「無理いって付き合ってもらったし…夜中から運転してもろうたから。帰りは俺、運転するから…火村寝とき…」
実はあの後、ほんの少しの間だけ水平線に目を向けただけで、アリスはすぐに人ごみを縫って追いかけるように戻って来た。その時には既に火村は熟睡中だったのだ。
見つめる寝顔がなんだかとても疲れているように見えて…。起こす事など出来なかった。それに、いつもは火村の方が早起きだからめったに寝顔なんて見た憶えがなかったから。じっと見ていた。
「いいよ。もう、すっきりしたし」
「でも…」
「正月早々、大人気ない事したのは俺の方だろ」
すっかりしゅんとしてしまったアリスに、さっきまでの思いはどこへやら…、火村もまた反省してしまう。
「来た以上は一緒に楽しめばよかったのに、悪かったな」
「ううん…。そんなん…。ほんまにごめんな…疲れさせてもうて…」
「アリス…」
「なんかさ、一人で初日の出を見ていても全然楽しくなかってん。で、戻ってきて火村の寝顔見てたらな。別にどっこも行かんでいいなって思った。そんなんどうでもいい…火村と一緒に居れたらそれだけでいいって…」
「そう思って貰っただけでも来た甲斐があったな」
ふっ…伸びてきた手がくしゃりと髪を摘んだ。
「…帰ろう、早く。で、ちゃんとお正月しよう。二人で」
「了解!」
ばあちゃんお手製のおせち料理に火村家直伝の雑煮。
ここ数年のアリスの正月を彩るものだ。そこにアリスの用意したお屠蘇を添えて、準備完了。
「あけましておめでとう」
「今年もよろしくな」
「こちらこそよろしく」
お猪口を合わせて、正月気分を堪能する。
「ふぅ…おいしい」
それぞれの料理を一つ一つ味わいなからご機嫌な様子で杯を重ねていく。
「おいおい、もうあんまり飲むなよ、日本酒弱いんだから」
去年の正月。たまの日本酒も美味しいと調子に乗って口にして、結局正月早々二日酔いを起こしたアリスだったのだ。
「わかってるって…今年は大丈夫!!」
「その言葉、去年も聞いた気がするけど?」
「え、そうやったっけ? ま、いいやん。もう一口だけ」といいながら、もう一杯と差し出されたお猪口を持つその手が真っ赤。その目も、頬も首筋も…。
ほどよく色づいて、思わずそそられてしまう。
「却下」
「えっ? けち!」
「…欲しかったらな、ここからどうぞ」
そう言うと火村は、とっくりごとお屠蘇を口に含みここと自らの唇を指差した。
「あ、あほっ…」
ぱちぱち目をしばたかせてアリスは、ますます紅くなりながら「自分で注ぐからいいわ」と手酌をしようとした。
その手をぐいっと引き寄せられた。
「うわっ、えっ? んっ……」
重ねられた唇から、熱い液体が忍び込んでくる。
ちびちびと舐めるように飲んでたアリスにとって、そんな急にたくさん雪崩れ込むのはちょっとした衝撃で。飲み込んだ喉が熱い。
「んんっん…」
離してとぽかぽかと抗議する手から力が抜けてしまう。
そんなアリスの舌を絡めとる火村はその力を緩める様子を見せない。反対に逃すまいとするかのように強く吸い上げられ、熱くなった口腔を全て味わうかのように舐めていく。かとおもうと、意外に感じる口の上壁を優しく焦らすように行き来され、思わず震えが走る。
「…あんっ…あっ……」
ぞくり…感じたままに、漏れる声。
その響きは火村を余計に熱くさせる。背中に回った手に力がこもる。ばきぼきっと音を立ててるほど抱き寄せられたアリスから、更に艶っぽい音が流れ出す。
「んん…ん…ひむっ……んん…」
いつしかアリスも求め始める。火村の舌を追いかけて追い求めて。
火村に与えられた
「…アリス…」
長い時間をかけて…濃厚に。まさに奪い尽くすようなキスをたっぷりと贈って…ようやく火村は唇を離した。
「…もっといるか?」
掠れた声が耳元で囁くけれど、意味がわからない。
「なに?」
うっすらと開いた瞳が潤んでいる。
「もっと飲む?」
聞きながら、片手を伸ばして残った酒を注いでいる起用に火村。そのために抱き締めた腕が緩んでも、アリスは抜け出す様子もなくすがり付いている。
「……あかんって言うてたくせに…」
「あぁ…お前だけ酔うのは駄目」
「何や、それ」
「一緒に酔うならいい」
「火村は酔わへんやんか」
俗に言うざる。少しハイになる事はあっても、顔にも出なければ後にも残らない。あまりに酔わないからつまらなくて飲む気がしないという火村だ。
「いや、酔ってるよ。いつも…お前に…。アリスに酔ってる」
静かに下りてきた唇にぞくりとする。
「…どうした?」
「変や…」
「俺が?」
「違う…俺が…」
言うなりアリスは自分から唇を合わせる。
「もう…いらん…お酒…でも…俺も…火村に酔いたい…もっと…」
ちゅっ、ちゅっと音を立てながら、繰り返される可愛いキスの間に漏れた声がそんな言葉を紡いだ。
ザーザーとシャワーの音に混ざって時折堪えきれない声が溢れ出している。
「…あっ…っ…んっ…」
寝室までたどり着けなかったのは、その道すがらにアリスが引き止めたからだ。短時間とはいえ海で過ごしたせいかべたつく気がするから…と駆け込んだバスルーム。ならば一緒にと乱入してきた火村と共にお互いの身を洗い合う。
「今度は俺が」と後ろに回ってごしごしと背中を擦っていた火村の手が止まる。
「ありがとう…え?」
終わったのかと礼を告げたアリスに答えはなくて、代わりに手ぬぐいがばちゃっと音を立てて落ちた。
「…火村?…やっ…そこはいいって」
その手が明らかな意図を見せる。びくつきながらアリスは必ず文句を言ったりするけれど火村は意にも介さない。
「嫌だね。一番綺麗にしてやる」
辿ってきた指が自分でも触れることのない奥を探ろうとしている。
「えっ…でもっ…あっ…駄目っ。交替…しなっ…んっ」
いつしかアリスの抗議は完璧に止まってしまって…丹念に洗っていく火村の指に身を預けてしまう。
「やっ…急に…無理っ」
「大丈夫、無理はさせない…少しずつ…こっちも…」
「あぅっ!」
さっきのキスから完璧に火を点けられていた身体でそそり立っていたものに触れられて声があがった。
「本当はな…帰り道…よっぽど駆け込もうかと思った」
びくびくと面白いように反応を返すアリスを愉しみながら火村は告げる。
「どこ…へ」
「…ここまで遠くてさ…・。夜だったら道端にでも止めたろうな」
問いと答えが微妙にずれている。でも、そんなことたいした問題ではなくて。
「…んっ…それっ…だめっ…」
「嘘、いいんだろ」
「…ん…いいっ……」
結局、何もかも知り尽くしているその指に翻弄されて落ちてしまう。
ぐにぐにと探る指に広げられたそこにシャワーを浴びせられ、熱いお湯が入ってくる。
「…やっ…あつっ…」
「洗ってるんだよ」
「…でもっ…あっ…」
「こっちも…」
「あん! やっ…そこっ…離してっ」
根元から先端まで、微妙なタッチで擦りあげていく指にシャワーが降り注ぐ。
「ここだよな」
「はっ…いやっ…やぁぁっ…」
身を捩り悶えるアリスが、張り詰めていくのがわかって、ぐっと根元を握り締める。
「やっ…痛いっ…もっ…堪忍してっ」
「駄目だよ…。一人でなんて…な。もっと…よくなろう」
「うんっ! 連れてって…早くぅっっ…」
「アリス…」
奥に忍ばせた指の動きが性急になった。
「あっ…ひむっ…好きっ……んん…んぅ」
そんな火村に懸命に着いて行こうとして、しなだれかかりねだるのはキス。
「んっ…好きだ…アリス」
「あぅっ!…はぁっ…俺もっ…あっ…」
するりと指が抜け出したと、思うと熱くて堅いものがその入り口に触れる。
「このまま…後ろから…な」
「んっ…うんっ…あうっ!」
火村が押し入ってくる。その痛みに慣れることは決してないと思う。でも、その先にある悦びがどれだけ甘美なものかを知っているから、瞬間苦痛に歪んだ顔が落ち着きを取り戻すのを互いにじっと待っている。
「…もっ…平気っ…」
「ん…良くなろうな…。一緒に…」
「うんっ…んっ…んんっ…」
一つになる。…互いを繋げあう。そこから沸き起こる愛しさ。それは二人でしか産みだせない世界。
アリスだから満たしてくれる。
火村だから満たしてくれる。
そんな大事な存在を互いに感じながら、二人は共に上り詰めていった。
バタン。
ドアの開く音がしてまもなく寝室の扉が開いた。
「どっか行ってたん?」
気だるそうに首だけを動かして尋ねたアリスに「はいよ、これ」と火村は年賀状の束を渡す。
「あ…取ってきてくれたんか…ありがとう」
「ついでだ」
ポケットからキャメルの箱。
「あれ? なかった? いつもの引き出し」
火村のためにと常時買い置きしてある分が、いつもあるはずなのに。…正月前買物ついで準備して置いたと思ったのだが。
「あぁ。見当たらなかったけど?」
「そっか…。あれぇ、どこ置いたんやろう。おかしいなぁ…絶対どっか買ってあるんやけど、ごめんな」
「いいって。…吸ってもいいか?」
「うん。いいよ…。あ、でも…灰皿取ってこな」
起き上がろうとしたアリスを制する。
「いや。俺が行く…」
無理だろう…動けないはずだ。多分、しばらくは尾を引くだろうほどやってしまった稀に見るハードなのを。正月早々だっていうのに…。
バスルームで、ニ回。そして寝室でも二度ほどアリスをイカして『もう無理』と泣かせて、自分はそれ以上…イッた。この腰がだるくなるほどなんだから、アリスはその比ではないはず…と思うから。
「いつものとこだろう」
「うん…大掃除したとき片付けてん。あ、じゃあ、ついでに、なんか飲み物欲しいな…喉、からからや」
「わかった」
そりゃ、あんなに声を出せば…当然の成り行き。きっと最後には自分がどんな声を撒き散らしたかなんてわかってないほど咲き乱れたアリスだから。
冷蔵庫からウーロン茶を。いつもの戸棚から灰皿を取り出す。
「なんだ…ここにあったのか」
さっきアリスの言ってた買い置きとやらが並んで置いてあった。
「一年の計ねぇ…」
先刻は不機嫌に考えた言葉がまた浮かぶ。
この調子で一年過ごしたら一体どうなることやら…。
もう、何年も一緒に居ても未だ覚めやらぬアリス熱。
「ま、結局、アリスに開けてアリスに暮れてくんだろうな、俺の一年は…」
きっと、それはアリスも同じ。
生活の端々にこうして、自分の存在がある。
「いい正月じゃねぇか」
くすくすとご機嫌な笑みを浮かべて火村は愛しい人の元へと戻っていった。
end♪
ちょっと言い訳…この話を書いた時は火村が酒に弱いってって事まだ知らなかったので…(笑)おやっと思われたかもですが、ま、時の流れってことでお許しください(笑)