透明人間?
ある朝起きたら虫になっていた…ってのはカフカの『変身』のあまりにも有名な冒頭部分だ。 ま、実際そんな事は絶対にあるわけないんだけど…。 でも。 ある朝起きたら俺は透明人間になっていた。 そんなことも勿論到底起こりっこない事…。 だが、しかし、あにはからんや。 どうやら俺はまじにそれになってるらしい。 嘘やと思うろ? 俺だってそう思う。 でも、でも、だ…。 見えてへんみたいやねんもん、火村に。 そんなアホなって…突っ込みたくなるのは俺もやねんけど。 現に今。 ベッドを抜け出した俺の気配に気付いたのか、上半身をぬっと起こして火村は俺の名を呼び止める。 「…珍しいな…アリスが先に起きるってのも…」 確かに珍しい。でも、その言葉自体はおかしくないけど『そんな事ないやん』と言葉を返した俺を目の前において、ばさっとベッドに逆戻りした火村はこう続けたのだ。 「トイレでも行ったかな…」 ちょっと待て。 『寝ぼけてるんか? 火村ってば。俺はここにいるやんか?』 そう言った声もまるで届いてないらしい。 「ん…今日も元気な朝だな…」 むにゃにゃと呟いて、また目を閉じてしまう。 もしかして、寝ぼけてただけ?とも思うが、どうも違う気がする。 一体全体、どうなってるんや?? ふわり…火村の髪に触れてみる。 「…ん…アリス」 なんややっぱりわかってるやないか。 おはよう、と薄目を開けた恋人を覗き込む。 が。 「なんだ…気のせいか…」 ちょっと待て! 今、ばっちり、目あったやないか? まじに見えてへんっていうんか? わ、わからん。 ど、どうなってんねん? と、眉間に皺を寄せる俺。 だが、ふと…次の瞬間…妙な音に気付いた。 がさがさ…って…。 ん?? も、もしかして、火村…。 そのもぞもぞって…あの…あのぉー。生理現象って奴ですかぁ? さっき言ってた元気な朝ってのは、その…あれがまたまた元気って事なわけ? ひーえーーーっ! やっぱ化けもんやな、こいつは。 昨日、あんなにしたくせに! 途中で数えるのも馬鹿らしくなるくらい…し倒したくせに! まだ朝からそんな…やりたい盛りの高校生なみに元気だとは。 いや、確かに何か最後の最後に『続きは明日』とか言う言葉を聞いたような憶えはある。でも、『無理』と俺は応えたはずだ。『もう出るもんない』とまで言ったはず。そこまで絞りとっといて…。 呆れて見つめる俺に気づかず(…ってそうだよな、見えてへんねんから…)火村の動きは盛んになっていく。 「…んっ…アリスっ…」 へっ? ちょっと待て…。なんで俺の名前…って、まぁ、そうだよな。恋人なんだから。 ここで他の名前呼ばれたら大問題なわけで、と見つめた火村の顔。 あ…。 なんかすごい色っぽい、と俺が言うのは変なんやろうけど。 何か…こんな顔って…。ぞくぞくする。 いつも、コトの最中だと何が何だかわかんなくなって火村の顔なんてろくろく見れへんもんなぁ。 必死にしがみついてたり、シーツを握りしめてたり。まじに火村がどんな風に俺を見て、どんな顔で感じてるかなんて見たことないような気がする。 ま、そんな明るいとこでするってのもこの所なかったしな。 いや、それ以前に、俺、目開けてへんもんな。全部、肌で感じて。…全部、火村が触れてるとこ全部に焼かれて…って感じで。 火村って…こんな顔するんや。 改めてそんな事思ったら何だか目が離せなくて。 いや、もっと…全部見てたくて。 丁度俺が抜け出した方にずれてきていたタオルケットをそっとひっぱってみる。上手い具合にずるずるとそれはベッドからはらりと落ちていった。 うわっ…。 昨日、あのまま寝てもうたから…。火村はシャツしか羽織ってない状態。いや、俺もやけど。 ごそごそと動く火村の指が既に立ち上がったモノに絡み付いていき、緩慢に括れの辺りをなぞっている。 伸ばした中指をすっと袋の方に伸ばして、触れる。 …この動きって…。オレを辿る火村の動き。 「…んっ…」 噛み殺すような響き。甘い甘い火村の無意識の吐息。 シンクロしたようにずくんってして、あっ…と思わず洩らした唇を押さえるけど、火村は気付かないまま動きを激しくしていく。 そうやんな。見えてへんねんもん。 そう思ったら、何か俺は超大胆になっていく。 もっと…。なぁ、もっと火村。感じて…。 火村のするとこでオレがイッチャウくらい激しくして。 火村の吐息に、火村の動きに煽られて。 オレもどんどん熱くなる。 見てる事がこんなにもどかしくって、こんなに奇妙な快感を与えてくれるなんて…。 「アリスっ…あっ…っ…」 あぁ、いいっ! その声、好き! もっと。もっと呼んで。 「アリス…ア…リス…」 うぅ。気持ちいいっ! ぐんぐんと高まっていく火村。 俺を求めて募る火村。 その声にもその表情にも…煽られて。 透明人間な俺も上り詰めていく。 「っくーー」 ひたすらに噛み殺した息で達した火村から溢れだす熱い迸りにぞくっとして、駈け上った快感で俺もまた自分の手を濡らしてしまった。 やばっ…。 火村に見えていないとはいえ、このままではいられない。 火村は粗い息を吐きながらテッシュに手を伸ばしているけれど。透明人間な俺がそれをすると怪奇現象なわけで、きっと不審に思われてしまう。ここは本当にトイレにでも行って、と動き出した矢先。 「拭いてやろうか?」 火村の声がする。 「え? 見えるんか?」 「当たり前だろ。いやー、朝からいいもの見せてもらったぜ」 にやっと笑い乍ら、起き上がった火村は足取りも軽く俺の前にひざまずき。 「綺麗にしような」なんて、濡れた俺の指ごと舐めやがった! しまった! やられた! なんて思っても後の祭りなわけで。 「ちょっ、火村!」 逃れようとしてもベッドに引き戻される。濡れた舌がオレを辿って更に奥にまで忍んでいく。 まだ昨夜の火村が残ってるようにだるいままなのに。 「あっ…やっ…無理って!」 「嘘つき。もう出ないっていってもこんなに残ってたじゃねぇか」 くすくすと笑う息にまで、震えが走る。 「イヤじゃないんだろ…」 いやと言って見ても、それは嫌悪ではなく悦びなんだと…カラダが勝手に答えを伝えてしまう。 その後、程なく第二ラウンドに突入した事は言うまでもない。 |
5000カウントゲッター、くまちゃんさんのリクエスト
「透明人間になったアリスが火村の一人Hをのぞく話」でした。
ちょっと、いや、だいぶ外したかなぁ。…とは思いますが、透明人間テイストひむあり…
いかがなもんでしょうかね?