なぞなぞ
目が覚めるとアリスがいた。
『だいじょうぶ? ひむらくん…』
なんとなくそんな声を聞いたような気はしたけど、夢だと思ってた。
ベッドサイドで座っているうちにそのまま眠ってしまったんだろう。
俺の指先に触れるか触れるかふれないかってとこにほわほわの毛があたってくすぐったい。
そろりそろりと指を伸ばして、その耳に触れるけどびくりともしない。
「来るなって言ったのに。しらねぇぞ、うつっても…」
今年の風邪はたちが悪い。
熱があがってへろへろになる。
起きれないから食べるのも面倒になる。
こんなしんどいの…滅多にない。
いいつけを守らないやつがどうなろうと知ったこっちゃない。けど、結局、こいつにうつったらほおっては置けなくなる。
どうせ自分では何もできないんだから、アリスは。
いつでも全力で、 何にでも一生懸命で、とってもとってもがんばりやなんだけど。
なんだかどっか抜けてるんだよな。
決め手にかけるっていうか、つめが甘いっていうか…なんか見てられなくなって。
つい、かまってしまう。
気にすることないって思うんだけど、どうしても気になるから。
つい、会いに行ってしまう。
自分でもわかんないそんな気持ちをこいつは言い当てる。
「好きなの」って。
悔しいから俺からは一度も言ってやらないのに、こいつはいつも甘えた声で「好きだから気持ちいい」って繰り返す。
何をしても…。
どんなに恥ずかしいことでも。
「ひむらくんだから…」って、可愛い声で告げる。
こんな俺のどこがいいのやら…。
「ほんとに…ばかな奴」
ぼそりっ…と漏れた言葉にアリスが答えた。
「そうだね」
「起きたの?」
「ひむらくんこそ、おきちゃった? なにかいる?」
「いや…。すぐに眠るから、アリスは帰れ」
「やだ。かんびょうするもん。おうちでもちゃんと言ってきたよ」
「だめだって。移ったら困るだろ」
「だいじょうぶやもん!」
「アリス!」
「だって、ボク、ばかだから。ばかはかぜひかへんでしょ?」
はぁ…溜息が出る。
こういうへ理屈だけは得意なんだよな、こいつは…。
「いいから、帰れ」
「いやっ。いるの」
「ダメったらダメ」
「どうして?」
「どうしてって。お前がいたら眠れなくなるだろ」
「あっ…」
腕の中、真っ赤になったアリスの耳に囁きながら押し付ける俺の分身。
「こんな傍にいたら我慢できなくなるよ。しんどいのにさ、ここだけゲンキになっちまう…」
「…やん」
甘い声を残してアリスは跳ね起きる。
「な、わかったら帰れ」
コンコンとではじめた咳を片手で押さえて、片手でバイバイと手をふった。
しばらくして。
がさがさっ…と動く気配がする。
するんだけど。それは決して離れたわけでなく。
「アリス!」
なんて予想外な奴!
そのがざごそは布団の中に潜り込む音。
「…ねつはだしたほうがゲンキになるんやって、きいたことあるもん…」
そりゃそうだけど、なんでお前…こんな時まで。
俺のをしゃぶるんだ?
意味が違うだろ、意味がーー!!!
まったく…ばかなんだから…。
でも。
でも…。
こんなばかをほっておけない俺ってもっとばか。
…そう思いつつ…。
結局アリスを止められなかった俺は、数日後寝込んだ奴を手厚く看病するはめになるのだった。
ってことで、うさありちゃん…火村くんの場合バージョンでした。
うさありも謎だけど、でも火村くんがもっと謎だよね、ってことでタイトルはなぞなぞでした(笑)