あかりが上にあがってからしばらく、一階の宴会会場では未だやんやの大騒ぎが続いていた。
「葵ちゃ〜ん。こっちおつまみお願い〜」
「あ、は〜い!」
あかりがいなくなったせいで、現在二人分のおさんどんの仕事を一人でまかなっている葵ちゃんが、元気よく台所で返事を返す。
「ったく、お前もちったぁ手伝えよ。葵ちゃんばっかに仕事させやがって…」
「な、なによ!あんただって、ずっとそこで座って飲んでるだけじゃない。」
向こうの方から、毎度おなじみの浩之と志保の口喧嘩が聞こえる。
なんか楽しそうだなあ…くすくすと可笑しさをこらえながら、葵はさっき台所を借りて作っていた、卵焼きを浩之たちのいるテーブルへと持っていった。
「いいんですよ、先輩。わたしが好きでやらせて貰ってるんですから…志保先輩も座ってて下さい」
「きゃ〜ありがとう。葵ちゃ〜ん。だから大好き!」
「たく…あかりもどこいったんだ…?」
「そういえば、どうしたのかしらね?」
自分達のせいで、あかりがこの場にいないのも忘れてたいそうな言いようである。
葵はあかりのためにちょっとフォローを入れようかと思ったが…どうせ聞いてないと思い、止めておいた。二人ともしっかり酔っ払っているようだ。
「ごめんな、葵ちゃん…なんか雑用なんて頼んじゃって…」
酔っ払いながらも浩之が恐縮して言う。葵は少し照れながら、
「いえ…今日の主役は先輩達、卒業生ですから…でも、あんまり飲み過ぎないで下さいね…。お酒の飲みすぎは体に悪いですから…」
真面目な葵の性格からすれば本当は、未成年なんだからお酒は…といいたい所だが…、さすがにそんな事を言ってせっかく盛り上がった宴会に水を差す気にはならない。
せいぜいこの程度の注意で精一杯である。
「お、おいしい!ちょっとヒロあんたも食べてみなさいよ。葵ちゃんの作った卵焼き、すっごい美味しいんだから!!」
浩之とのケンカをさっさと切り上げて、いち早く葵が持ってきたばかりの卵焼きを突ついてた志保が感動して大声で喚く。
喚くだけじゃ飽き足らず、浩之の襟首を掴んでユッサユサと振り回している。
「だー、もう掴むな!判ったから…」
「ほら、ホラホラホラ……」
「じ、自分で食えるって!」
一刻も早く自分の言ってる事を確かめさせようと、箸に卵焼きを掴んでグイグイ口元へ押しやってくる志保を払いのけながら、自分で卵焼きを食べる浩之。
「あ、その卵焼きは、さっきあかり先輩にコツを教わったんですよー」
へー…という声が二人からあがる。
その後も、あーだ、こーだと口ゲンカしながら、葵の料理をつまみに酒を飲む二人と話しながら…、ああ…なんか楽しいなあ…またこんな日があったらいいなあ…
葵はもう一度そう思った。