藤田家の宴会
第3話「レミィ、志保を巻きこんでお立ち台に登るの巻」


宴もたけなわとなると、こういった場には必ず芸が必要となる。なぜか必ずなる。

どこからともなく、いけに……もとい、エンターテイナーを求める声が出てくるのである。

ただ、ここでは求められる前に、エンターテイナーの方がさっさと登場してしまったのだ。

「ハ〜イ!浩之。盛り上がってマスカ?」

「お!…あ?ああ…レミィか?」

いきなり、後ろから抱きつかれて、内心ドキリとしながら浩之は返事をする。

突然後ろから突き飛ばされたのはいままでに何度もあったが、抱き着かれるのは初めてだ。

どうしてもドキドキしてしまう。

「な、なんだよ、いきなり飛びつくな。びっくりするだろ?」

すぐ隣…顔の横にあるレミィのコケティシュな笑顔にドギマギしながら浩之は出来るだけ意識してぶっきらぼうな声を出す。

でも、心の中では…(う…せ、背中に…当たる…)とか思っているので、なにか不自然な声になっている。

浩之と長い付き合いの人間なら、内心が一発で解ってしまうような演技だったが、幸運な事に、彼女は別室で酔っ払いロボットの看病をしている。

もう一人はすぐ隣にいたが、同性のよしみで気がつかないフリをしてくれたらしい…彼はイイやつだった。

 

いつもレミィはこんな感じで、別に変な意味がない事は分かっているが、やっぱりドキドキするのは仕方ない。

「ワタシお座敷の宴会初めてダヨ!!楽しいネ!ヒロユキ!!」

満面の笑み…というのを絵に描いたら、こういう顔だろう。

「お、おいおい…お座敷ったって、うちの和室なんて、そんなたいしたもんじゃないぜ?」

そう言ってみても、レミィのニコニコはおさまらない。しきりに「お座敷♪お座敷♪」と繰り返している。

天真爛漫という言葉をそのまま人間の形にしたような女の子のレミィだが、お酒が入るとさらに開けっぴろげになるらしい。

しかも、よっぽどお座敷で宴会という言葉が気に入ったのだろう。みんなが卒業式を終え、それぞれ普段着を来て集まっているのに、レミィだけはなぜか浴衣のようなゆったりとしたデザインの和風の着物を来てきている。

そんな理由から金髪に和服というこの場で一番目立っている存在のレミィだったが、本人はまったく気に留める様子も無い。

あっちでお酌をしたり、こっちで浩之に抱き着いてみたりしている。

「ところでヒロユキ?お座敷には芸がツキモノヨ。なにかやって場を盛り上げるネ?」

突然、片目を器用につむってウィンクを飛ばしながら、レミィが浩之にそう言った。

「はあ、芸?」

浩之がトンマに返事を返す。

「YES!日本の伝統ネ」

 

……何かまた勘違いしているらしい…。

 

浩之も雅史も頭の中にたくさんの?マークが浮かんだ。

「あああーー!!ヒロがどさくさに紛れてレミィにセクハラしてる〜〜!!」

また突然、向こうの方からバカでかい声が近づいてくる。

ああ…バカが来た。浩之はそう思った。

「アンタねぇ、そんなに節操なく女の子に手ぇ出してばかりいると、そのうち罰当たるわよ。ちょっとは雅史を見習いなさいよ。だいたいから、アンタはあかりというものがありながら…」

当然、志保だった。

「おまえな…」

浩之が毎度のこと反撃を開始しようとしたところ…

「シホ!アタシと一緒に、Let‘sお座敷芸ネ」

突然、浩之の背中にいたレミィが志保の両手をガシッと握ってそう言った。

…………

……

「はあ?」

しばらくの沈黙のあと、今度は志保がトンマな声を上げる。

「イワユルひとつのお約束ヨ☆エンターテイナーは場を盛り上げなきゃネ!」

自信満々に言い放つレミィを、しばしボー前と見ていた志保だったが、エンターテイナーという言葉に触発されたのか、にやりと笑うと、

「ふっ、このグレートエンターテイナー志保ちゃんに芸で勝負を挑むとはいい度胸ね。いいわよ、受けて立ってあげるわ。演目はなに?何でも受けてたつわよぉ」

と言い放った。

「OK!じゃあこの中から何か一つ選ぶネ!」

レミィは懐からなにかトランプのようなものを取り出すと裏返しにテーブルに並べた。

裏面には英文字で「Leaf Fight」と書いてあった…。

「む?用意いいわね…じゃあこれ。」

志保が1枚とって表を向けるとそこには、

「顔面洗濯バサミ」

と書いてあった。

「YA!洗濯バサミネ。オーケー。」

レミィは嬉しそうに用意を始める。

「な、なによー、この盛り上がらない種目は!地味過ぎよ!地味過ぎ!」

「お前、さっきなんでも受けるって言ってたじゃねえか。」

「う…だって…」

浩之に突っ込まれて、口ごもる

「志保ちゃんはぐれーとなえんたーていなーなんだろ?ほれ、がんばってもりあげてみろ」

「ウギギ…アンタ覚えてなさいよ…」

そう言いながらも、即席で作られたステージへとレミィに引っ張られていく志保だった。

 

そして……

 

「あーっはっはっはっ!!」

十数分後…憮然とした志保の横でお腹を抱えて笑い転げる浩之がいた。

「あんたね…そんな性格だとモテないわよ…」

忌々しげに志保がつぶやくがまったく効果がない。それどころか、その顔を見てまた大笑いする浩之だった。

「だって…お前その顔みたら俺じゃなくたって……あっはっはっはっ!!…ほら雅史!お前も無理してコラえるな、ここは笑っていいとこだ。あっーはっはっはっ!」

「う、い…いや…その…」

うつむいて必死に何かに耐えている雅史の肩をバンバンと叩く。どうやら何とか吹き出すのを堪えているらしい……繰り返すが、彼はイイやつだった。

ジャンケンで負けると顔に洗濯バサミを取り付けられるという地味な勝負を、レミィが途中から見事に盛り上げた。

罰ゲームはどんどんエスカレートし、なぜかほとんどジャンケンに全敗した志保は…

生卵をアタマにぶつけられる…

生クリームのパイを顔にべったりとつけられる…

四角い透明なプラスチックの箱に首を突っ込まされて、パウダーシュガーの消化器で顔を真っ白に変えられる…

と散々だった。

「なんであの子、あんなにジャンケンに強いのよ!!」

ぼやいてみるが始まらない…

エンターテイナーどころかすっかり「ネタ振り」と化してしまった志保だった。

横では「ド○フだ!志村だ。」と大笑いしすぎて、けいれんを起こしそうな浩之と、まだ何かの衝動と必死に戦っているらしい雅史の姿がある。

志保はもう一つ大きくため息をついた…

ステージには洗濯バサミを2つほどつけたまま、次の獲物を求めて目を輝かせているレミィがいた…。