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ふぅ…
倦(う)んだ溜息を一つついて、琴音は周りを見渡した。
志保と智子がカラオケを始める少し前のこと…
琴音は広間の離れの方でちんまりと座り込んでオレンジジュースをちびちびと舐めていた。
──元々、卒業生の集まりなのにどうして自分がココにいるんだろ……──
そう自問する琴音の脳裏に一人の金髪の女性が浮かんだ…。
「コトネ! あのねあのね、今日ね、ヒロユキのウチでhome partyがあるの。よかったらアタシと一緒に遊びに行かない?」
突然あまりよく知らない人間に話し掛けられると誰でも焦るものだが、この一つ年上の女性は、まるでそういった感情を持ち合わせてないかのようだった。
卒業式の後、ばったり会ったときに抱きつかんばかりに親しく話し掛けて来ては琴音をここまで引っ張ってきたのだった。
もちろん、琴音とレミィは初対面ではなかったが、それでも浩之と一緒にいるところで何回か会ったという、言ってみればそれだけの仲だった。世間的に見たらどう見ても親密というほどではなかった気がする。
…にもかかわらず、こうやって人懐っこくいろんな人に話し掛けられるレミィの存在は、琴音には新鮮な驚きと共に、ちょっとした羨望の対象でもあった。
──わたしもあんなふうになれたらなあ…──
そう思ったことは一度や二度ではない…。
実際に周りから見ても琴音とレミィは図ったように正反対の性格に見えただろう、琴音は学校でレミィが友達達と楽しそうに笑っているのを見るたび、「たのしそう…」とまぶしいものを見るような瞳で、羨ましげに眺めやることしか出来なかった。
だが、そのレミィも先程まで一緒にいたのだが、少し離れた所に浩之を見つけると、「じゃコトネ!後でまたお話しよーネ!」と、いって席を外してしまった。
レミィにしてみれば、こういったパーティは色々な人間が歓談する場所であって、琴音も自分がいなくなれば別の友達を見つけると思ったのだろう。
だが、基本的に話しベタな琴音は、後に残された途端に居場所を失ってしまい、仕方なく手近な料理に手を伸ばしたり、飲み物を自分のコップに注いだりして居心地の悪さを紛らわせていた。…が、それもそう長くは続かず、さっきから居心地悪そうにもじもじと身を狭くしていたのだった。
………………
…………
「はぁ…ダメだなわたし…」
少し周りを見渡したあと、そう一人でグチてみる。
これがレミィだったら、連れてきてくれた人が居なくなったからといって、こんなところでじっとしていたりはしないだろう。
すぐに別の知り合いを見つけて、突撃気味にちょっかいをかけに行くだろうし、また、むこうもレミィに対しては「あらレミィ、どうしたの?」と気さくに会話を始められる空気を持っている。
どちらも今の琴音にはないもので、そして琴音が欲しいものだった……。
…わたしもあんなふうになれたらなぁ。
取りとめも無くそんなことを考えてると、ふと浩之の言葉が頭をよぎった。
──琴音ちゃんはいい子なんだからもっと自分に自信を持たねぇとなぁ──
そういえば浩之さんはそう言って苦笑気味にアドバイスしてくれたっけ…。
琴音はしばし自分に向かって自問してみた…。
自分に自信を持てば、レミィさんみたいに魅力的になれるかな?
上手くいったらすごく嬉しいな。
浩之さんを信じて少しだけ勇気を出してみようか……
「…よしっ」
琴音は小さく気合を入れると周りを見渡した。
…どこかの話の輪に混ぜてもらおう。
誰かに話し掛けてみよう
そして、友達になれるかどうか試してみよう。
周りは上級生ばっかりだけど、でも今まで会った人たちは、みんないい人ばっかりだったもの。…きっと大丈夫……。
自分で自分を励ましながら、決心を固める。
──相手を選んで尻込みしないように、ぱっと目に付いた人にしよう。その人に決めよう。大丈夫…。ここにいるのは浩之さんの友達だもの。きっと気さくないい人ばっかりだよ──
そう思って目をつぶる。最初に目に付いた人に話し掛けよう、そう決心して。
(せーの…)
ぱち…
目を開けてみた。
視界の真ん中にいたのは……
手の届く範囲のとっくりというとっくりから、その中身を紙コップに中身を移してそれをゆっくりとした動作で次々とあおっている、不思議な雰囲気の日本的な美人で、白色灯の下で見ても、なお背中まで伸びている艶やかな黒髪が印象的だった。
しかも、なぜか周りが学校帰りで制服だというのに彼女一人だけ洋服を着ている。
……だ、誰だろう…あんな人卒業式にいたっけ…。
想像していた賑やかな集団とは、あまりにも違う相手だったので、途端に琴音の中の弱気の虫が騒ぎ出しそうになる。だが、
──だ、だめ、ちゃんと決めたもの──
ぎゅっとこらえて勇気を振り絞る。
なんとなく、ここで諦めたらもう自分が変われない気がした。
きっと話し始めたらもう後には引けない。なんとかなるはずだ…。そうに違いない。
「あ、あの…お、お一人ですか?」
意を決して、勢いをつけてどしどしと近づいていって話し掛けてみる……つもりだったが、琴音なのでどう頑張っても【とてとて】という感じにしかならない。それでも今の琴音には精一杯だったが…。
「…………」
黒髪の女性は両手で持っていた紙コップを口から放して不思議そうな顔でこちらを見上げた。とりあえず、それ以外に何も反応がない……。
「あの、わたし2年の姫川って言います。……ホントは下級生なんですけど、藤田さんと知り合いで…それでここに呼んでいただいて……」
とりあえず自己紹介を始めてみる。
何を喋ればいいのか…見当もつけずに話し掛けたので、とにかく自分のことを喋るしかないという苦し紛れだった。
だが、相手の女性の反応は琴音からは特に見えない。よく見ると少し首をかしげて心持ちこくこくとうなづいてるように見えなくもないが、何も喋らないところを見ると気のせいかもしれない。
「あ、あの…よかったら…そのよかったらでいいんですが…少しお話とか…しませんか…?いえ…あの、ほんとによかったらで…」
誘ってみたものの、やっぱりどこかレミィのように明るく話せない。簡単なようで難しいものだ。相手の反応がないのも不安である。
そうしていると、こちらを見上げていた女性がうつむいて何かしている。なんだろう…?よく見てみると、近くの席から座布団を引き寄せているようだった。
しばらく見ていると、すぐ隣まで座布団を移動し終わった女性がまたこちらを見上げたままじーっとしている。
まるで、そこでネジが停まった人形のようだった。
とりふえず動作の意味を考えると座れということだろうか?
「あの…座ってもいいんでしょうか…?」
尋ねてみると、わずかに【こくこく】と頷いたようだった。
─ああ…ちょっと不思議な人だけどいい人なんだ…よかった─
初めて自分から行動したことに対して好意的な反応がもらえたので、琴音は嬉しくなった。気をよくして話を続ける。
「あの…よかったらお名前とか教えてもらえませんか…?今日卒業生のかたなんですよね?」
「……………」
反応がない。いや、微妙にどこかを見渡している気がする。面白くなかったのだろうか。なにか面白いことでも言わないといけなかったのだろうか…。
「あ…あの、すいません。よろしければお名前……」
ちょっと、不安に刈られてもう一度訪ねる。もしかしたらよく知らない人間が名前とかきいたので気を悪くしたのだろうか……
「…………」
少し、あたりを見渡していた女性が今度は振り返って何事か呟いた。
「…え?くす…がわ…?あ、来栖川さんですか?はぁ…」
非常に小さな声だった。もしかして警戒されているのかな?と琴音は思った。
もしかしたら急に寄ってきて名前を聞く変な女だと思われたかもしれない…
そういえば、来栖川という名前はどこかで聞いたことのある名前のような気がする…と琴音は頭のどこかで思ったが、とりあえず彼女が名前を教えてくれたので話が先に進めることにした。
「あの…先輩は今日卒業されたんですよね?」
ふるふる…
「……え、違うんですか…?」
コクコク…
「え?…もう去年卒業した?え…えと、じゃあ今は大学生さんなんですか?」
コクコク…
「えと、じゃあどうして……」
…………
「あ、違うんです。いいんです。全然いいんですよっ…」
……………
…………
………
……疲れる……。
やってみると、他の人と積極的に会話するというのはこんなにしんどい作業なのだろうかというほど疲れる作業だった。
何か間違っているような気もするが、あまり経験のないものだけに"どう違う"といえるものでもない。とりあえずもうちょっと頑張ってみよう……そう自分を励ます。
「えと、じゃあ来栖川先輩は藤田さんのお知り合いの方ですか?お祝いに来られたとか?」
コクコク…
「お一人で来られるなんて仲がよろしかったんですね。クラブか何かがご一緒だったんですか」
ふるふる…コクコク…
「え?クラブは一緒にしていたけど来たのは一人じゃない?妹さんも…?あ、妹さんは今日ご卒業なんですね…?」
ふるふる…
「え…妹さんも卒業生じゃないんですか…??てらじょ……寺女って少し離れたところにある??え?ええ?」
………頑張ってみたがやっぱりさっぱり的を得ない会話だった
……………
…………
………
それからしばらく話しつづけてみたが、琴音から見て来栖川先輩が楽しそうな反応をすることは結局一度も無かった。
最初は張り切って話していた琴音もだんだんと勢いがなくなってきて、最後にはいつもの弱気が戻ってきてしまった。
「……それであの……」
「……………」
「……あの」
「…………」
「……やっぱり……わ、わたしなんかに話し掛けられても楽しくないですよね…」
「…………?」
「ごめんなさい…楽しんでる所につまらないお話なんかしてお邪魔しちゃって……わ、わたしもう帰りますね…。いろいろお話できて……うれしかったです…すみません……」
頑張ってみたものの、とうとう沈黙に耐え切れず席を立とうとする……琴音にとって初めて頑張った気持ちが相手に通用しないというのは得難い苦痛だった。
やっぱり止めとけばよかった…また辛い思いをしてしまった…。
だが、思わず目の奥からこみ上げてくるものを抑えながら立ち上がろうとした琴音の袖に……"つい"と掴むような感触が感じられた。
振り返るとひどく悲しそうな表情の来栖川先輩が自分の袖をつかんでふるふると首を左右に振っているのが目に映った。
「……ごめ……さい…」
「…え?あの…」
ともすれば、宴会の喧騒で消え入りそうなか細い声。
あまり大きく開かない小さい口から、それでもさっきよりは確実に頑張っている大きめの声が聞こえてくる…。
「ずっ…聞い…い…ました…。…まら…なく…なん…無…です…」
「え…?」
「…ごめ…なさ……」
思わず聞き返すが、何について謝られているのかがわからない。
自分が勝手に話し掛けてきたからこの人が困っていたのではなかっただろうか…。
「あの…どうして謝っているんですか?わたしが…」
「…生ま…つき…こえ…小さ………。あな…に…いや…思い…させま…た…」
「え…?」
「ちょ、ちょっとねーさん。どうしたのよ。そんな大きな声だして…」
少し離れたところから女の人が駆け寄って来た。
ここにいる自分でも聞き分けられるかどうかという声だったのに随分遠くから近寄ってきたようだ。
「あ…これは…」
琴音が振り返ると、そこには目の前に今見ていた顔と同じ顔があった。
そこにいたのは、今ここに座っている来栖川先輩と見分けがつかないほどの同じ顔立ちを持った女性で、その女性は歩きよりながら、こちらを驚いた顔で見ていた。
「え…えと…妹さん?」
「ええ、妹の綾香よ…」
さっき来栖川先輩が言っていた寺女に通っていた妹だろう。
なるほど、顔は先輩とそっくりだが、寺女の制服を着ている。
「で、どうしたの…?ねーさんがそんな必死になるのって普通じゃないわよ。…あなた、ねーさんに何かしたの?」
"きっ"と少し強めの眼差しで見据えられる。
強い意志の感じられる目の光。
自分の行動に、迷いや後ろめたさを持たない人間の持つ独特の眼差しだった。
きっと、この人もレミィとは違った感じで自分に自信を持った人なのだろう…。
「え、あの…そんなつもりじゃ……。ご、ごめんなさい…」
強い視線に思わず驚いて謝ってしまう琴音。
やっぱりやめとけばよかった…という、もやもやとした後悔の念で、もう一度胸の中が一杯になる。
一人で色々思い込んで、出来もしないのに似合いもしない事をするから、人に迷惑をかけてしまったり、怒らせたりしてしまうんだ……。
うつむいて泣きそうな表情で、もう一度謝ってもうここから居なくなろうとしたその時…。下げた頭の向こうから「あイタッ」という綾香の声とともに綾香の非難の声が聞こえてきた。
「ちょ、ちょっとねーさん。なんでわたしの髪を引っ張るのよ。え?な、何で怒ってるの?…え?…いじめた…?わたしが…?…ちょ、ちょっとまってよ。わたしはねーさんが誰かにいじめられてるのかと思って……」
「………………」
「え?違うの…?え?え?…じゃあ悪いのはねーさんで、この娘に謝ってたところ?…うそ……じゃあ、わたしってもしかして全然お門違いの思い込み…してた……?」
「…………(コクコク…)」
「いや…だって…ほら、ねーさんが珍しく感情的になってるから…わたしはつい……」
ふるふる…
「…う……ご、ごめんなさい……」
「…………」
「う、うん…たしかにそれはそうね……わかってる」
「…………」
「はい…わかってるわよ。…ちゃんと謝ります」
……なでなで…
なにか不思議なやり取りが目の前で行われていた。
声だけ聞いていたら、演芸などでよくある一人芝居……もしくは電話口で問答する人…そんな感じのやり取りだった。一方的に人が喋っているのに会話が通じているらしかった。
「あ、あの…ごめんなさいね。てっきり誰かがねーさんをいじめてるのかと思ったから、つい…」
問答がすむと、綾香がこっちを向いて申し訳なさげに謝ってきた。
どうも誤解が解けたらしかった。
……………
…………
「……ごめんなさい。あのね…ウチのねーさん、もともとあまり話すのが得意じゃ無くて、あまり大きな声が出ないのよ。だからあなたの話を聞いて返事をしてたんだけど、ちゃんと聞こえなかったんだと思うの。暇で困っていたから、あなたに話し掛けてもらえて嬉しかった…ってさ」
なでなで…
姉の言葉を代弁して喋る綾香の頭を、さっきから来栖川先輩が横で撫で続けている。
「もう、ねーさん恥ずかしいったら、やめてよ〜…髪の毛くしゃくしゃになるじゃない」
恥ずかしがって、その手をどけようとする綾香を見て琴音は、さっきまで感じていた威圧感のようなものが霧散しているのに気がついた。
元々はこういう雰囲気の人なのかもしれない…。今の綾香の話し方はすごく自然で親しみの持てそうな感じだった。
さっきの厳しい言葉も姉思いの感情から来たものなのだとしたら、むしろ好感に思える。
「あ、あの…こちらこそ、よく知らないくせに早とちりしてすみませんでした。」
もう一度深々と頭をたれる琴音。さっきとはうって変わって、今度は謝った時の心が軽い。
「えと…あのね、それでねーさんが……よかったら、これからも友達になってくださいだって…。あなたとは気が会いそうだから…って」
人懐っこい笑みを浮かべて微笑む綾香。
その笑顔を見ていると、まるでさっきの厳しい感じが嘘だったかのような気すらする。
「え…あ、はい。よろこんで…」
「じゃわたしとも友達になってね。今度一緒に遊びに行きましょ。絶対よ?」
そういってウインクをしながら軽く手を振ると、綾香は「ちょっと用があるから」と言い残して、いそいそとどこかへ言ってしまった。
別れ際まで気がつかなかったが、手にはドレスハンガーを持っているようだった。
……………
…………
「あの…すいませんでした、声のこと気がつかなくて…」
綾香がいなくなった後、改めて一言謝ると、来栖川先輩はふるふると首を振って謝罪を断った後、今までと同じ聞き取れるかどうか微妙なくらいの小さな声で「……姫川さんは…オカルトに興味はおありですか?」と聞いてきた。
「…え?」
唐突な質問に、琴音の脳内にクエスチョンマークがたくさん点灯する。そうすると、また来栖川先輩のほうから同じ問いが繰り返される。
「えっと…す、好きってことは無いんですが……あのぅ…」
質問の真意はわからなかったが、とりあえず質問に答える。
最近は、琴音自身の努力のせいで話題に上らなくなっていたが、ほかでもない琴音は一年の頃エスパー少女として学内で話題の女生徒だったのだ。とてもオカルトが好きというようなものではないが、無関係で生きてこれる話題でもなかった。
「え…?もし、オカルトに興味があるのでしたらオカルト同好会に入りませんか…?って…わたしがですか?」
コクコク…
「でもわたし、もう三年生だし、他の部員の人にご迷惑じゃ…え?大丈夫…?ちょうどたった一人の部員が卒業していなくなったところだから…って、わたし一人なんですか??」
コクコク…
「いまなら、部長になれます…って、でもそんな…わたし一人だと何をしていいか…え…?OGとOBがしっかり指導してくれます…って、学校の活動ですよね?え?外にでることも多い…え?え?」
唐突な申し出に面食らっていた琴音だったが、特に部活に所属しているわけで無し、せっかく出来たこの年上の友人が、あまりに熱心に誘うので、無下に断るのもなんだか悪い気がしてきた。
「あの……わかりました。そんなにおっしゃって下さるのでしたら、入部させていただきますね…。よろしくお願いします、来栖川先輩。…え?芹香でいいんですか?……それじゃ芹香先輩。よろしくお願いします」
来栖川先輩……芹香は、相変わらず同じような表情でこくこく…とうなづいていたが、慣れると、そこはかとなく喜んでいる雰囲気が伝わってくるようだった。
琴音はなんとなく、この先輩と話をする上でとても大事な"何か"をつかんだ気がした。
「で、でもわたし、最近はそうでもないんですけど、実はちょっと特殊な体質でご迷惑をお掛けするかも……」
言うまいか悩んだが、どの道知られる事のようなので先に断っておいた方がいいだろう…。
ただ、この力のせいで友達を無くしたのは一再のことではなかったため、琴音の脳裏に過去の苦い思い出が蘇る…。
力の存在を知って離れていった友人、興味本位で近づいてくる人たち。どちらもあまり思い出したくない記憶だった。
…………
………
琴音が少し過去の妄想に浸っている間に、芹香がいつのまにか自分の前に小さな包みを出してきていた。
「これは…?」と尋ねる琴音に芹香は一言「今年の部長のユニフォームです」と答えた。
「??…部長のユニフォーム?」
「…………」
それ以上は何も答えず、ただ芹香は琴音の瞳を上目遣いで覗き込むようにしてもう一度手にもっている包みを差し出す。
「はぁ……あの、ありがとうございます。」
とりあえず、進展しそうにないので受け取ったが、ユニフォームとはなんだろう…?オカルト同好会に試合や大会があるようにも思えない。
ふと、見ると芹香が包みをじーっと見て停まっている。
もしかして今開けて欲しいのだろうか…
「あ、開けてもいいですか?」
コクコク…
開けて欲しかったらしい。感想を言った方がいいだろうか…
──がさがさ──
言われたとおりに開けてみる。
服にしてはそれほど大きくない包みだったが、丁寧なラッピングが性格をあらわしている気がした。
……………
「え…えと…」
中に入っているのは、ユニフォームというより奇怪な変装道具のようなものだった。
黒いルージュ、黒のマント、黒い筒状の帽子…それらが小さく折りたたんであるスポルティングバックとともに入っており、服の上には釣り糸らしきものがちょこんと乗っている。
「あ、あの……これは…?……これがわたしのユニフォームなんですか??」
コクコク…
意味がわからず目が点になっているのに琴音を尻目に、芹香は相変わらず小さい声で…「あなたは自動的なほうなので大丈夫です」と告げたあと、どこからかともなく黒いつばの広いとんがり帽子を取り出してきて自分でかぶると、"ぶいっ"とこちらに向かって、いつもの表情のままVサインを一つした後、小声で「また…お会いしましょう…」と言い残すと、突然立ち上がり、スタスタとどこかへ歩いていってしまった。
「………自動的??」
後に残ったのは、いまだ疑問符と共に目を点にしてたたずむ琴音一人だけだった…。
──数ヵ月後──
……夕暮れ時の人のいない校舎の屋上で、不思議な筒型のシルエットの少女が不思議な音色の口笛を吹いていたという噂が流れたが、それはまた別のお話……。
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