■ 冬のプロローグ  1  (東  月乃  )


私の願いはただ一つ。
ずっと彼方の傍にいること。

落ち込んでいる時に、慰めてくれる彼方が好き。
パンタジアが買収された時私に指輪をくれた時から、もうあなた無しの世界は、考えられない

いえ、その前から私は、あなたのことばかり考えている。


私は彼が。好きだから。

あなたが私のことを気にし始めてとわかった時すごくうれしかった。



側にいられるだけでいい。

見つめているだけでいい。


それだけでいいからと思っていた


「月乃??どうしたんじゃ???さっきからボォッとして???

「あ、いえ。何でもありませんわ!!

「そうか!!ならよかったんじゃ!!これから、出掛けるんじゃけど。月乃も一緒に行くか??


 

「手を繋ごっか」

 

本当に唐突に、なんの前触れもなく彼が言った。

 

パーの字に開いた手を私の前に持ってくる。

 

東さんは少し照れたような顔をして笑っていて、私もつられて笑ってしまう。

 

「やですよ、」

 

ちょっと意地悪をしてみたくなって私がそう言うと、

 

彼はひどくがっかりした顔をしてみせた。

 

日が西に傾いて、空は朱に染まっている。

 

東さんの顔も、私の顔も赤かった。

 

彼が、バッグを肩にかけ直して歩き始める。

 

私もその後を追うように歩く。

 

彼の右手は、彼のポケットの中にしまわれてしまっていた。

 

あれ?もう諦めてしまうの?

 

ちょっとの拒絶であっさり退いてしまうなんてやっぱりまじめね。

 

私は彼と繋ぐであろう筈だった左手をぷらぷらとさせる。

 

だめだなぁ、東さんは…なんて思いながらも、私は彼の横顔を見上げて満足そうに笑う。

 

瞳はくりっとしていてなんだか子犬を思わすような感じ。

 

私が彼の身体の中で一番好きなのは引き締まった暖かい手!

 

なんて言ったら

 

友達に笑われた。

 

いや…実に私には勿体ないぐらいの人で生まれ付いてのパン職人の為の手

 

なんというか、私に店にスカウトして、でかした私っていう感じ。

 

「東さん」

 

「何じゃ?」

 

東さんがくるっと振り返って私を見る。

 

大きめの瞳が本当に愛らしくって、私の頬が緩んだ。

 

「はいっ」

 

私は手を伸ばした。

 

東さんはぱちぱちと瞬きをして、それからにこっと笑った。

 

「いいのか?」

 

「はい」

 

彼の手が私の手に触れる。

 

依然にもまして彼のは、あたたかったが、東さんの手の感触は心地が良かった。

 

「ふふっ」

 

手を繋いでいるとお互いの体温で温められて、

 

暖かいから熱いに変化する

 

「手、暖かいですね」

 

「ほぇ?そうかの?」

 

「はい。」

 

「月乃の手は柔らかくて気持ちいいのパン生地のようじゃ…」

 

きゅっと小さく力を込める。

 

東さん手の中に包まれている私は、

 

思うより以上の心地よさを体感して気分が良かった。

 

 

ふたりの足から伸びた影の一部が繋がりあう。

 

私は東さん先輩の存在を感じるように、もう一度きゅっと力を込めた。

でも…こうやって、一緒に買出しができたからそう私が思っていると、東さんは私の顔を覗き込んできた

「どうしたんじゃ、月乃?」

「はい、いいえ・・・」

くすぐったい気分になる。

 

「じゃ、帰りましょうね」


 さりげない演出を狙って、再び手を握った。


 わたしは自然な流れだと思ったのだが。

 

すりすりと両手で握ってくる。余程嬉しいのかしら私の手。

 

「これからも、こうして手を繋ぎましょうね」


「おーぅ!!」


 大歓迎じゃ!と言う笑顔。

 あぁ、やっぱり。
 私は、この人に夢中になるため、産まれたのかもしれない。


 溶けるような熱い手に感じ私はそう思った。

 

 

 

    Fin

 

     続く

 

 

 

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