■  三千院家の首輪   1  ( ハヤテ  マリア )

 

「お嬢
「お嬢さ

「お嬢さま

 

「出て行け! お前なんか、もう顔も見たくない!」

 

「ああ  わかりました。  お嬢さま!」

 お嬢さまから再びクビを突き付けられた、その日の夜。

 

僕はお世話になった三千院家の一室で、荷物をまとめていた。

 

コンコン。

 

「……ごめんなさい」


 振り返るとマリアさんが、後ろ手に扉を閉めた格好でたたずんでいた。

 

普段のマリアさんは僕の返事もなしに部屋に入ってくるような女性じゃない。

 

相当にショックを受けている様が、そんな行動の片隅からも見て取れた。

 

「考え直してくれませんか? 三千院家の執事をやめるだなんて・・」


 僕は静かに首を横に振った。

 

一人前の執事になれたかのように錯覚して自惚れていた僕。

 

 

「……行ってしまうんですね、やっぱり」

 

目線を落としてマリアがつぶやく。

 

「お屋敷を出て、これからどうするんですか?」


「どうにか頑張ってみますよ、今までだって何とかなってきたんだし」

 

マリアさんから視線をはずし 窓から最後になろうとする 三千院家の庭園の景色を見た。

 

だとすればマリアさんの姿を見るのも、これが最後……。

「ハヤテくん!」


 この男性に、もう二度と会えない……そのことを悟った途端、マリアの胸の奥に苦くて熱い何かがこみあげてきた。

 

「ごめんなさい、……」

(・・・私、ハヤテ君のことが・・・・・・)
 

マリアさんは静かにぼくの後ろによりそい僕の退路を塞いだ。


 深々とマリアさんが溜め息をつき、うしろからハヤテに体を預ける。

「え、、」

振り返るとマリアは、微笑みながら。

 

美しい人差し指で少年の口をふさいだ。

 

戸惑うハタテの腕を引き、震える身体をさらにに密着させる。

 
鼓動を重ね合わせるようにしながら、ゆっくりとマリアの顔がハヤテの口唇に

近づいていく。 

 

「あ!? マリアさん……ンっ……!」 

 

柔らかな感触を楽しむように口唇で甘噛みされる口唇。 

 

ハヤテの手が、口づけをしながらマリアの身体を抱きしめた。

 
宵闇の中でライトアップされる噴水を窓ごしに背にして、

 

離れることのない情熱的なキスが繰り返される。

 

目に憂いを帯びながらマリアがそっとはなれる

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
静寂に耐えられなくなったハヤテが先に口を開いた。


「・・・・・・・・・・・・・・あの  なぜ・・・・・」



「くすっ。一体何故なのかしら?」

 




 ここまで考えると、もう言い逃れは出来ないでしょう。

 

私は、彼に名前を呼ばれると、うれしくなる。

 

気弱な笑顔をしている彼・・・・綾崎ハヤテに。

 

自分には大切な気持。


だから・・・・この思いに素直に答えよう。

 

静寂の中で、抱きあう二人。

 

「ハヤテ君がやめるなら 私も一緒についていきます。・・・・・

これから、よろしくお願いしますね」


マリアがハヤテにつぶやく。


まさか、彼女が自分のことを好きと言ってくれるとは思っていなかったのだ。

 

マリアのことは、好きだったが、こんな不幸で借金もちな自分が告白できることも

ないだろうとあきらめてていたので、これからの意味合いを込めて、マリアに言った。


「僕はマリアさんが好きです。

 

「こちらこそ。よろしくね、ハヤテ君」


ハヤテの言葉にしっかりと返事をするマリア。


「でも僕は貧乏で借金もちなのにマリアさん

 

「・・・・・・・・」

 

( 確かに、いまのこの生活を変えるのは、少し未練がありますね。)

ニコリと笑みをみせ マリアが

「心配しないで・・・・ハヤテ君」

 

 

すかさずこの頭脳明晰な美人メイドは何かを思いついたようだ。

 

 

 

「ナギには少しお灸を据えてやらないといけませんね。」


「何をするつもりなんですか?」


 

「おねえさんに、すべて任しなさい、ハヤテくん」

 

マリアは微笑みながら言い切った。

(マリアさん、コワイ・・・)

そんな気持ちを知ってか知らずか、マリアは、再びハヤテの首に両腕をのばしてきた。

 

Fin

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