KINGDAM

第4話


 それは過去だった。
 痛い程、人を愛した。
 でも。
『…捨てるわけにはいかんねん…。火村に火村のしがらみが有るように、俺には俺のしなあかん事がある』
 目に一杯の涙を浮かべ、それでも、断固と言い切って。この腕を振り切るようにするりと抜けたあの日。
 道は分かたれた。


「誰もが二の足を踏んでいた、その時、十位がいったのさ…。『私が書きます』ってな…」
「貴方もその場にいたんだろう…」
 ぎりっ…思わず噛み締めた唇。
「止める隙もなかったさ…」
 目に浮かぶ。夕陽国の大会議。
 皇位継承権の末席に座る第十位。普段はただそこに座っているだけに過ぎない彼が素早く立ち上がったのだから回りはさぞかし驚いたことだろう。
『役不足かもしれませんが、上位のどなたも傷つくことは許されません。せめて、塔で学んだものとして…私にペーパーを書かせてください』
 国王によく似た温和な面差しに決意を込めて言い放ったのだろう…。
「誰も異論は唱えなかった…」
 かなり薄い繋がりでありつつ遠縁の血族から第十位の席についたアリス。それ故に影ではまことしやかに囁かれ続けていた噂があった。〜国王と第十位は実の親子ではないのか〜。不義に関して極めて厳しい夕陽国にあって、その噂はアリスを苦しめるものだった。事実無根の噂だと信じたい、けれども幼くして両親を無くしているアリスには否定しきれない。
 彼が塔へと足を運んだのはそんなまとわりつくあれこれから逃れるためだ。
 でも、卒業の時期を迎え結局アリスは選んだ。自らの立場をまっとうする生き方を。だから、戻ると言った。強い意志で言い切って目の前から去っていった。
 それがこんな事になろうとは。
「まぁ、どうあがいてももうはじまっていることだ…。逃げないでやってくれ」
 ぽん、と肩を軽く叩き、来た時と同じ唐突さで江神は踵を返した。

 夕刻。日が落ちてもまだ火村は動けずに居る。
 江神が残した言葉が心に沈む。
『お前と離れてからのあいつは生きる屍だった。それがあの時…生き返った…。わかってやってくれ…火村。死ぬ気なんだぜ…あいつは…。お前の手にかかって』 
 万が一、夕陽国と戦う事になっても、まさか第十位と戦うなどとは思っても居なかった。
 もちろん、国を相手にしている以上敵として会い見まえる事は否めないのはわかっている。だが、ペーパーに記された戦いの最もてっとりばやい終結は、誓約者の死。この戦いの中で一番危険な立場にあるといっても過言でない位置に居ることになる。
 このところの膠着状態からして、きっと英都の奴らもその手っ取り早い道を模索しているに違いない。血眼になって…。
「時間の問題か…」
 ボキボキっと掴んだ枝が折れる。
「くそっ、誰が他の奴の手になんてかけさせるもんか!」
 
 火村参戦!
 翌朝、その知らせは誰もが知ることになった。







ひゃあ、短い…そして…アリスをだせ、と…言われていたのだけど…。
次だな…。うん。ごめんなさい。進行が遅くて…。   
  
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