第1話
 
       【ひむあり子育て日記】・・でも、まだボクタチはアリスママの中なのだ(笑)

6月4日──火村SIDE

今日はアリスの様子が変だった。
いつもなら料理中からつまみぐいなどなんだの・・とちょこまかしているのに。
食事を目の前にしても箸をとるそぶりすらない。
「どうした?お前の好きな魚だぞ」と声をかけると、
「悪い。俺・・食べられへん」と、言うなり、脱兎のごとく洗面所へと駆け込んでいく。
調子悪かったのか、と背中をさすっていると、しばらくしておちついてきた。
そして、「火村、レモン汁作ってー。すっぱいのー」と甘えられ。
本当に湯冷ましにレモンを絞っただけのとてもすっぱいのを作ってやると満足げに飲み干した。
そして、今。
「ちょっと、すっきりしたけど・・とりあえず、横になるわー」
食後にと、言ってた執筆も取りやめて、早々に眠っているアリスだ。
風邪だろうか・・。大事がなければいいが・・。

6月5日──アリスSIDE

なんか変って感じが毎日続いてる。
いつもではないけど、特に食べ物のにおいが気持ち悪くって、たまらなくなる時がある。
で、すっぱいものほしくって。今日は梅干しを買ってきた。おいしい。
昼。火村から電話があった。
風邪はどうだ?と職場から。気になるから今日また来てくれるらしい・・。
でも、風邪やない・・そんな気がする。このところずうっと続くこの感じって。
もしかしたら・・・。
でも、まさか・・。
俺、男やし・・。
でも・・。ものすごく・・すごい事を考えてる・・。
自分でも検査出来るってやつ・・買ってきてみたけど・・。
まだ、恐くて試してない。
どうしようかなぁ。


第一話 告白

 その夜。火村はソファーで横になっていた。
 今日も朝からずっと気分がすぐれない様子のアリスは早々とベッドで床につい ていた。
 寝室のドアは開けてみたものの、隣に居たらなんかちょっかいをかけて しまいそうで寝顔だけを拝んで引き返して来ての一服。
 ふぅ…キャメルの流れを追い掛ける。
「悪い病気でなきゃいいんだが…」
 カチリ…小さな音に目を上げると、アリスがふらふらと起きだしてきている。
「こら、駄目だろ。ちゃんと寝てないと」
 慌てて煙草をもみ消してかけよると、ぺたっとすがりついてくる腕。
「だって、火村おれへんから・・」
 不安そうに呟かれて、そっと額に唇を寄せる。
「ごめん、今行くよ・・。歯磨いてからな・・」

 先にベッドへとUターンしていたものの、アリスはまだベッドサイドに腰をか けたままだ。
「どうした?」
 隣りに腰をおろすと、真剣な瞳でアリスが見つめてくる。
「なぁ…火村。話があるんやけど」
「な、なんだよ。改まって・・」
 そのなんとも言えない表情にどぎまぎしてしまう。
「ちゃんと聞いてくれる?」
「もちろん」
 この期に及んでどうしたんだろう。やっぱり、何か病気が・・。
「あんな・・その・・俺・・できたみたいやねん」
「えっ?」
「だから・・ここに・・ その・・」
 と、そっと手をとり導く先は腹の上。
「アリス?」
 その指先と、こくんとうなづくアリスの顔を往復すること、数回。
「でかしたぜ、アリス!」
 火村は思わず、アリスを抱きあげ、小さな子供にするようにぐるぐると空中ぶ らんこもどきをしてしまった。
「やっ…! 危ないって……」
「ご、ごめん! そうか……もう、お前一人の身体じゃないんだよな」
「そうやで…。お・と・う・さ・ん」
「おとうさん・・ 」
 その響きに思わずにへらーっと崩れる火村の顔に、アリスはクスクスとひとし きり笑い、また真面目な顔に戻った。
「でも、一度ちゃんと病院で見てもらわなあかんけど・・俺、男やし・・マスコ ミにでも騒がれても嫌やし…ちょっと行きにくいしなぁ」
「任せとけ、そんなもん。警察や病院や、知り合いは色々いるさ」
 言うや否や火村は腰を浮かす。
「ちょっと…火村、真夜中やで」
「あ・・。じゃ、電話だけでも」
「いいから、ここに居て。今は傍におってや」
「そうだな・・」
「うん・・」
 見詰め合った視線をさらに近づける。
 注がれた口付けに混じって聞こえた『ありがとう』の囁きに、アリスは至上の喜びを感じていた。

→NEXT(第2話)

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