第11話 大人の時間(笑)
何度も何度も柔らかなキスが降ってくる。
身体中、埋めつくすように。
「そんなしなくったって…もう十分わかってるやんか」
「でも、触れていたい。もちろん、もう、無理はさせない」
少し膨らんだ様子の腹にそっと触れる手。そして、唇。
一時期。
妊娠中のセックスをあれほど心配していた火村もこのところコツを憶えてきたらしい。
『この向きだとそれほど負担じゃないって‥本に書いてあったぞ』なんて‥どんな本を読んだのやら。
あれ以降は、しっかりと実践して下さっていた。
今夜ももちろん‥‥とても文章で、書ききれないくらいの熱い時を過ごしたのだが‥。 その後、全く眠ろうとする気配もなく。
どうして今日は‥と思うほどの時間、戯れている。
「もう‥…あかんって」
「疲れた? 身体にさわるか?」
「…‥そうやないけど‥火村‥明日から講義やんか」
夏休みが終わろうとしている日だ。いや、きっととっくに終わってしまってるだろうけど、既に時間なんてわからない。
「俺なら平気。触れていたい、アリスに」
両頬をそっと包む熱い手のひら。
「キスだけでも…いや?」
覗き込む真剣な目に見つめられて。
「‥いやなわけないやろ‥けど‥あんっ‥」
なおも心配げな言葉も吸いとって『好きだ』と一言告げられたら、もう頭の中
は真っ白になってしまう。
「キスさせて。ここにも‥ここにも‥ここにも‥」
そんな魔法の声に操られるままに‥そっとアリスはまぶたを閉じた。
切りがないほど…。
長い長い時間をかけて続く、キス‥キス‥キス‥。
受けとめる。
おいかける。
額、目蓋、頬、首筋、胸、腕、手のひら、背中、腰、脚‥足首‥その一本一本の爪先まで‥たどっていく熱い唇の感触を。
どこに触れられても優しいキスに込められた火村の想いが、切ないほど愛しくて。
心地よさに酔いしれて、それが夢か現実か‥もうわからなくなった頃ようやく‥。
落ち着きを取り戻したように背後から抱き締めた火村が、そっと囁く。
「伝わった、アリス? 俺の想い」
「ん‥」
優しい声に泣きたくなる。
「そんなんせんでも、知ってるって言うてるやん‥」
「じゃあ、伝えてやって、アリス。お前のなかの命にも‥こんなにも愛してるって‥」
「火村‥」
追い打ちをかけるように綴られた言葉と共に近付いてきた唇にアリスは夢中で舌を絡めた。
───あぁ、いくらでも‥伝えてあげる。
火村の想いを俺の中に息づく愛しい者たちに、
届けてあげる。
こんなにも深い愛に包まれて、
君たちは産まれてくるんだよ。
しってるよって声がどこかで聞こえた気がした‥。
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