【ひむあり子育て日記】・・お祭り大好きなママにパパがはらはらしてたよ〜

11月3日   アリスside

 四天王寺ワッソに行ってきた。
 相変わらずスゴイ人。
 でも、前日から泊まり込んでた近所の特権でいい場所をゲット。
 こういう雰囲気って好きや。人のエネルギーを感じる。生きてるって実感するし。
 もちろん、屋台とかも面白い。
 金魚すくいしたかったけど、家にもどったらウリたちの餌食になると言われて断念。
 代わりに火村の射的の腕前を見せてもらった。
 ゲットしたウルトラマンとキティちゃんのお面。子供部屋に飾っておこう。

 祭りといえば思い出す情景は、父さんに肩車してもらって見上げたやぐら‥。
 あれは夏祭りだったかもしれないけれど。
 来年は…まだちょっと無理かな。
 いつか必ず、家族みんなで一緒に来よう!
 一人ずつ肩車して…行列の後ついて歩こうかな。
 なーんていったら、火村はどんな顔するんやろ?

11月3日 火村SIDE

 今週は学祭期間に突入。
 昨日の検診の後、そのまま夕陽ガ丘に滞在。
 そして今日は、祭り祭りと大はしゃぎなアリスに振り回された。
 あの人混みによく酔わないで居られるものだ。
 もう8ヵ月だって意識ないのか? 全く…。
 明後日には長距離遠征も控えてるっていうのに。
 それを考えるとちょっとなぁ…。
 アリスにとっては実家でも、俺にとってはちょっと敷居高そうな気がしてるんだけど。
 ま、考えても無駄だな。なるようにしかならない。
 それよりも疲れで寝込まないように。見張ってよう。
第13話 お祭り! 

「あれ、聖徳太子やで!」
 にこにこ顔のアリスの横で火村は苦虫を潰している。
『せっかくこっちにいるんやから、のぞくだけ、な?』なんて、可愛い懇願に根負けしてついてきたのは四天王寺。
 確かに普段なら、手ごろな散歩道だけど。今日は違う。
 四天王寺ワッソだ。
 詳しくはしらないが、渡来人に扮する人々が行列し四天王寺の境内に待つ聖徳太子の元へ出向く姿を描いている‥とかなんとか、説明してもらった。
 要するに四天王寺名物の祭りの一つだ。
 境内はあふれんばかりの人でごった返している。 

 そんなところに、はしゃぎまくっている妊婦が一人。
「それはわかったから…そろそろ帰ろう」
「え、まだいいやん」
「駄目だって…お前はよくても…ほら、なんだ…こいつ達…」
 人込みに紛れてそっと触れたお腹は、もう8ヵ月。それなりにわかる状態にある。
 といっても、男が妊娠してると思わない世間の人にとっては中年太りが始まって贅肉が腹にたまってきたとでも思われる程度かもしれないが。現に今日出掛けに偶然エレベーターで出会った山中さんは、トレーナー姿のアリスを目にして、『ジョギングですか? いやー、この年になると適度に運動しないとすぐここに肉つきますよねぇ』と、アリスに負けないような腹をぽんぽんとたたいて見せていた。
 同じマンションに居ても知らない人も多いが彼は駐車場が隣という縁での知り合い。バーコードになってきている苦労がにじみ出た頭とビール腹の身体に、てっきり年上だと思っていたのだが同い年で3人の子持ちなのだそうだ。それを知った時、『正直言って驚いたわ!』とはアリスの弁。まぁ、それは余談だが。

「とにかく、周りにはこーんなに人がいるんだ。何かあってからじゃ、遅いんだから」
「大丈夫やって」
「だめ。あとで疲れがでるんだから。ほら、もういいだろ。帰るぞ」
 ぐっと掴んだ手をひいて、火村は歩きだす、といっても人の波に紛れるその歩調までもが慎重。
「ほんまに心配性やな、平気やのに」
 一方のアリスはそんな小言をこぼしつつ、なんといっても身体の事は十分にわかっているから、内心ではこの情況を楽しむ余裕すらある。
(まぁ‥火村にはわからんからなぁ、この感触が‥心配してもしゃあないか‥)
なんて思いも手伝って、笑みさえ浮かんでくる。
(‥よく考えたら‥こんなことも滅多にないもんなぁ)
 ついにはくすくすと声まで漏れた。
「なんだよ‥俺の心配、そんなにおかしいか?」 
「ちゃう。嬉しいんや」
「何が?」
「だって‥これまで絶対、人前で手繋いだりせんかったやん‥」
 言われてはっと気付いてみれば、確かにやってることはそういう事で。
「‥ばか!」
 急に照れてみせる火村にアリスはもっと近付いてみせる。
「祭りって好きやなぁ‥人がいっぱいで。みんなが笑顔で‥。少々はめはずしても、だれも他の人の事なんて気にしてへんもん。だから‥このまま帰ろうな」
 にっこり‥と腕にもたれたのは、いつもとは違ってちょっぴり策士なアリスだった。

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