【ひむあり子育て日記】・・2000ねん‥ぼくたちのでびゅーへかうんとだうん‥。

12月20日 アリスSIDE

 今日で火村の仕事が一段落。
 一年のお勤め、ご苦労さまでした!
 まぁ、冬休みも仕事がないわけじゃないらしいけど、今年は特別‥といち早く休みを確保したらしい。
 どんな事件でも呼ばないように、と大阪府警にも電話で念押ししてた。気合い入ってるなぁ。‥俺よりもすごいかも。

 とりあえず、明日には夕日ヶ丘に移動。
 なので今日は細やかながらここでのクリスマス。ばあちゃんからお手製のはんてんをもらった。おそろいの‥。あったかいや。これも持っていこう。 
 ばあちゃんは心配してくれてるけど、病院の近くにいた方がいいのは確かだし。
 クリスマス過ぎたら、母さんも出てきてくれるし。
 
 おっと‥、痛いって。
 こんなに元気な君たち。やっぱり男の子かな?
 ま、どっちでもいいから元気なまま出ておいで。
 みんなが待ってるよ。
第15話 カウントダウン・その1

 うーだとか、ひゃあーだとか…食器を洗っている火村の後ろで何やらアリスが騒がしい。
「どうしたんだよ?」
 声をかけるが応答なしで『よいしょこらしょ』とまだ四苦八苦しているらしい。
 振り向いて様子を伺うと、かがみこんで‥。
 うずくまってる?
「アリス!」
 ついさっきまでどうもなかったのに?
 やはり移動がこたえたのだろうか?

 巷でも2000年まで後何日とカウントダウンが始まっている。
 もちろん、火村家にもそれは例外ではないわけで。いや、多分世間様よりも遥かに不安も期待も入り交じって待つ、2000年。
 それはベイビー誕生予定日までのカウントダウン。といっても、男のアリスだから、自然分娩は無理とは言われている。が、陣痛はそれなりに起こるだろうから、ということでいつ何があってもすぐ動けるようにと、冬休みに入って早々に夕日ヶ丘に移動してきた今日だ。
 さすがにいつもと違う体には堪えたかもしれない‥などなど電光石火のごとく駆け巡る思いとともに、慌てて走り寄る。
 と‥。

「な、何してんだ‥アリス?」
 思わず拍子抜けして、火村は隣にしゃがみこむ。
「え、なにって‥見てわからん? 爪きり」
 そう。アリスの右手には、爪きり。
「ほら、いつ病院いってもいいように準備しとかなあかんやん。そういえば切ってないなって思って‥。こっちは終わってんけどな‥」と、手の指を見せてくれる。
「けど?」
「‥届かへん‥足の指」
「え?」
「靴下はな、なんとかこうやって足を後に折ったらはけるけど、爪きりって難しいやん。この子たちを越えられへんもん」
 ふわりと撫でるアリスのお腹もさすがに臨月。
 中年太りでごまかすには無理のある状態まできている。
「‥そりゃそうだな‥」
 貸してみろと、手にした爪きり。
「ひゃっ‥うーー‥」
 そっと足を掴むとアリスは奇妙な声と共に身をよじる。 
「これ、動くな。危ないだろうが」
「だって、くすぐったい〜」
 だろうな、と思う。
 普段でも、そこはアリスの弱点の一つだから。
 どれだけ敏感な反応を示してくれるかなんて‥百も承知だ。
 でも。
「我慢!」
「いや、やっぱいい。止めとく」
「駄目だよ。こんなに延びてちゃ痛くなるって。ちょっとじっとしてたら済むから。ほら‥」
 といいつつも、慎重に、丁寧に一本一本やけに時間をかけて火村は爪きり作業を進めていく。
 やけにご機嫌なその様子に、じっと我慢していたアリスから思わず不満の声があがった。
「うーーーーー‥火村〜、なんか君、うれしがってるやろ」
「何を言って。俺はちゃんと爪きりしたいけど、アリスが動くから仕方なく捕まえてるんじゃないか」
「いけず!」
「おっと‥本当に危ないって。深爪してバイ菌でも入ったら大変なんだから、じっとしてなさい」
 これじゃまるで親子の会話だと足先を見つつ、内心苦笑している火村に降ってきたいじらしい声。
「‥んーー、もぅ、早くして‥」
 ふと、見ると。うずうずとするのを必死で堪えて頬を真っ赤にしたアリスの涙目の訴え。

 思わず。
 ぽとり‥と火村は爪切りを落とした。

「ばか‥」
「え?」
 見つめられて、アリスはきょとんとしている。
「‥そんな台詞はな‥こいつらを外に出してから、言ってくれ‥」
「はぁ?」

 そんなせりふ‥‥?

「あ‥」
 アリスの思考が火村の意味に辿り着いた時には、既に抗議の言葉は火村に塞がれていた。
12月21日  火村SIDE

クリスマス寒波らしい。
山の方がうっすらと白いとばあちゃんが電話で言っていた。
確かに、昼間、こっちも外は冷たいというより痛いほどだった。
あと少し、風邪をひかないようにさせないとな。
もちろん、俺も拾わないように、要注意。

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