【ひむあり子育て日記】・・こんしゅうはゆうひがおかのママのおうちから。

7月7日   アリスSIDE

 今日は七夕。いい天気だから星が見えるだろう。
 この間、朝井さんがくれた笹にあの日来てくれた皆の短冊がひらひら‥。
 火村ときたら、すっかり親バカ。
 ─────アリスも子供も元気でありますように‥─────
 愛されてるなぁってお腹に話しかけてみる。まだ、何も返事はないけど。俺の中で息づく命達に。
 ちなみに俺の書いた言葉は。
 ─────火村とずっと幸せでおれますように─────
 別に君たちを忘れてるわけやないよ。ただ、親が仲よかったら幸せやろ?
 さて、息抜き完了。火村が帰ってくるまでに、原稿をすすめないと。
7月8日   アリスSIDE 

 ひっこし準備‥といっても、別に何も持っていかねばならないものもない。家はこのままだし。いつかはここに戻って来る日もあるだろうから。
 新聞屋さんには今週一杯で取り止めと、連絡を入れた。管理人さんにもしばらくは常在ではなくなる旨は伝えた。
 あと何か連絡しとくことはあるかな‥。
 でも、とにかく原稿。土曜日に間に合うやろか。
 こんなはずやなかった。よくいうセリフではあるけれど、今回はまさかこんな事が我が身に降り掛かるとも思ってなかったので、この間のお披露目の時に片桐 さんに「原稿、いけますか?」と耳打ちされた時は、焦った。すっかり忘れていたから…。でも、これをあげれば短篇集が出せるし。今更差し替えなんて俺のプ ライドにかかわる。ってことで、あと少しがんばろう。
7月9日  火村SIDE

 ばあちゃんから、部屋の準備完了の連絡あり。
 明日の土曜日にはこちらの片付けを終えて、片桐さんに原稿を渡してから、日曜日の午後には北白川へ戻ろうと確認をとった。
 しかし、間に合うのだろうか。あと少しといってはいたが。いつもの事だ。あてにはならない。決まってた事とはいえ、アリスの修羅場を目のあたりに見てい るといつも以上にはらはらする。徹夜なんて出来る身体じゃないんだ。もっと早くにとりかかればいいのに…。心配は尽きない。


第5話 修羅場中???

「ごちそうさまでした。さてと、そしたら後少しだけ、向こうにおるから」
 まだまだ細い食を済ませたアリスが、そそくさと動こうとする。
「無理するなよ」
洗い物を運びながら、火村は心配そうに声をかける。
「うん。絶対に今日中には寝るから・・」
となると、あと5時間足らず・・といったところか。
根をつめるのはあまりよくないのだが・・。
でも、それはアリスの仕事。
決して火村が立ち入る事の出来ないアリスの想像力が生み出す世界のもの。
「手伝える事があったら言えよ・・」
ドアをしめようとしている姿にエールを送る。
「うん・・。ありがと」

報告会もどきの結婚式の後、片桐さんが二人に告げた言葉。
「それで、今度の原稿はどちらに取りにいけばいいですか?」
「えっ? あ、あぁ・・あの・・」
「何日が締め切りですか?」
「7月10日です。もうそれが延長ギリギリラインですと、この間体調を崩された連絡を受けた時に確認させていただいたんですが」
「そうや。大丈夫やって。もう、あとちょっとやし・・。それに短編やし、これをあげたら秋先には短編集出してもらえる予定やから」
でも、お前の身体が心配だと見つめる視線に、大事な仕事なんやと言い切ってアリスは片桐と話を続けている。

あの時、再認識した。
共に暮らすなかで、アリスらしさを失う様な事はしてはならない、と。
生活の中でお互いがつぶれないように。
お互いをつぶさないように。
だから、今出来る事は・・。
「後片付けと、食後のコーヒーだな。よし、さっさとやっちまおう」
すっかり主夫と化している英都大学助教授どのは気合をいれる。

学生には絶対見せられない、アリスだけが独占できるその姿だった。

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