月がとっても青いから−3

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 目覚めると、やはりそこは昨日のまま。
「あ、お早ようございます。今日は快晴ですから絶好のトリネコ日和りですよ。よかったですね」 ハクユウ片桐がニコニコと告げる。
「はぁ…そうですか」
「大丈夫です。間に合いますよ、アリスさん。ヒムラ先生だってきっと何か考えて動いてますよ。絶対、大丈夫ですって。とにかく少しでも早くトリネコ便まで行きましょう。迷い穴に入ったロスタイムなんて取り戻せますから」
 元気のないアリスの様子を誤解したのか、おろおろしながらも一生懸命と励ましてくれている。その様子はやっぱり片桐さんだ、と安心すると少し笑みが浮かんだらしい。
「よかった。暗いアリスさんなんて似合いません。
笑ってて下さい。では、これ食べたら移動します」
 この際、じたばたしても仕方ない。とりあえずその火村先生に会ってみよう、と心に決める。
「わかりました。ところでアルマーニさんは?」
「彼は朝一番で仕事に戻りましたよ」 
「そうですか。片桐、いやハクユウさんは?」
「私ですか。ガードが終わるまでは有給をもらいましたけど」
 ……なるほど。
 この世界の人物って、すごーくわかりやすい性格なわけや。となると、火村はどんなんやろ。

 気持ちを切り替えると元気が出てきたようで、足取りも軽い。道程は順調そのものだった。ハイキングコースのような山道をどんどん歩いていくだけ。
 道々のハクユウとの話だと、この世界には魔法使いがいる。エイト城はこの辺りの魔法修業所。十年に一度、修業所対抗の技競べがあって各代表が技を競い会う。去年、エイトのヒムラがbPになったが、そのことを逆恨みして先生を陥れようとする企みがあるらしい。ただ、その事とアリスの関わりはハクユウにもわからない。
 ただ『青い月の日までにアリスをエイト城のヒムラ先生の元に届ける』ことが役目なのだそうだ。

「着きました」 
 ハクユウが意気揚揚と告げたのは、その山道を下りきったところあたり。
「ここでトリネコ便ですか」 
「そうです。もう来ると思いますけど、あ、ほら」
 指差した先から現われたのは、やはり想像どおり。ネコの身体に鳥の翼。まぁ、ちょっと大きすぎる気はするが‥。実にわかりやすい。
 それはふわぁっとアリスの目の前に降りてきた。
「ラッキーですよ! アリスさん。こいつスーパートリネコ便じゃないですか。これだと早ければ今日中にエイト城ですよ。落ちないようにしっかり捕まっていって下さい」
 そう言ってアリスをトリネコ便に乗せると、ネコの耳に何か話し掛ける。
 次の瞬間。アリスは空を飛んでいた。
「では、がんばって下さーい!」
 ハクユウこと片桐さんの声を遥か彼方に聞きながら‥。
「そ、そんなぁー! ひゃー!」
 がんばって、と言われても…。耳元のすざましい轟音に身がすくむ。さすがスーパートリネコ便。
なんて、感心してる場合ちゃう! どうしてこんな高度を人が飛べるんや? この世界はなんでもありなんかー! 叫びたいことは数々あれど、しがみつくだけで精一杯のアリスだった。

 どのくらいたったのだろう。
 うすく開けた目に夕焼けの色が映る。速ければ今日中、とハクユウ片桐は言った。
 もうエイト城は近いんやろか‥と恐る恐る下界を見る。雲の切れ間に時折見えるのは集落のようだ。遠すぎて何かよくわからない。
 もう少し、と身を乗り出した途端。
 「しまっ‥うぎゃー────!」
 あろう事か、アリスはトリネコの背中から落ちてしまった。
 どどどどどど、どうしようー────ー──── 


 しばし、暗転。


▽▽▽

「今度は何だ‥? 急にバタバタして‥。一体、どんな夢見てるんだ。こいつは?」


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